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2023年10月13日更新
相場に左右されず選ばれる要素とは|快適と安全約束された「立地」|コミュニティアパートができるまで⑦
文・写真/守谷光弘(「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー)
相場に左右されず選ばれる要素とは
快適と安全約束された「立地」
私は1989年に新卒で就職してから、母の介護に携わるために離職するまでの約15年半、ホテル業に従事していました。再就職したゼネコンでは、地主にアパートやマンション、テナントビルを賃貸事業として提案する営業職を経験し、その後、ホテル業に復帰した全てのキャリアの中で、一つのテナントビルと二つのマンション、三つのホテルの新規開業に関わりました。いうなれば一貫して“空間を商品として、その単価×稼働の最大化を目指す”土地活用の事業化を仕事にしていたことになります。
あまはじやの2階にある賃貸居室。登り梁の勾配天井には厚さ3センチの無垢材を使用。漆喰の壁と相まって、伸びやかで温かみのある空間を演出する。窓には断熱性能の高いサッシや複層ガラスを使っている
相場を決める
需要と利便性
ホテルもビル事業も顧客に提供するのは快適に過ごせる住空間です。空間というのは本来立方メートルのはずですが、比較されるのは専有面積=平方メートルでしかありませんでした。ましてやその空間を造り上げている構造や仕上げ、周辺環境はあまり評価されない代わりに、交通アクセスの良しあしやデザイン、設備などが比較対象となっていて、一番大切なはずの安全性や快適性、サービス面は注目されていないように感じました。その最たる理由は、それらを端的に比較するのが難しいことが考えられますが、果たしてそれで良いのかとの疑問を抱きながら今日に至っています。
「単価」はホテルでは「客室料金」、アパートやマンション、テナントビルでは「家賃」と呼ばれ、常に「相場」が付きまといました。相場はまず立地によって左右されますから、その建物が訪問の必要性が高い場所にあるのか、人気がある街にあるのか、そして駅やバス停から近いのかという「需要と利便性」によってほぼ決定するものと知られています。私が初めて勤めた銀座のホテルが、施設の老朽化とデザインの古さという弱点をものともせずに、単価も稼働率も高かったのは、年間を通じてビジネス需要が高く、地下鉄の駅が近かったからに他なりません。一方で高い単価や稼働率を見込めない事業者が、利益率を上げるために違法建築の安普請なマンションやホテルを建てて、解体命令が出た事件があったことも忘れられません。
利便性や眺望より
重きを置いたもの
「相場」に左右されたくなければどうしたら良いか? 需要は変動するのでいかんともし難く、立地は絶対的なものなので、まずは立地にこだわって建てるということになるかと思います。立地における優先順位は事業によっていろいろな考え方があります。「山城のあまはじや」では、利便性や眺望より、快適性や安全性に重きを置きました。
立地もまた住空間そのものと言えますから、建物の周囲にある自然環境や隣家との距離、そして居室の窓先に見える樹々や窓を開けた時に感じる空気も大切な要素として考慮しました。台風や地震などの自然災害発生時を想定すれば、地盤の強さや海抜も気になるところです。
農村である山城は、農業振興地域に指定されているので農業目的以外で使うことが難しく、また糸満市南部地域は沖縄戦跡国定公園に指定されているため、不要な開発ができないことも周辺環境の保全が約束されていると捉えました。ヤンバルに行かずともアカショウビンの鳴き声が聞こえるのは、とても幸せなことです。
もりたに・みつひろ
1966年東京都世田谷区出身。2007年より沖縄県在住。「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー 兼 管理人 兼 住人。糸満 海人工房・資料館を運営するNPO法人ハマスーキ理事。2020年、小規模土地分譲『等々力街区計画』の街区デザインでグッドデザイン賞受賞
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1971号・2023年10月13日紙面から掲載