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2023年5月12日更新

憩い・交流の場「雨端」 現代風に|コミュニティアパートができるまで②

文・写真/守谷光弘(「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー)

「あまはじや」の名に込めた想い

憩い・交流の場「雨端」 現代風に
 

私は自身のアパートを「山城(やまぐすく)のあまはじや」と名付けました。山城は所在地の集落の名前で、「あまはじや」はうちなー口の「雨端(あまはじ)」と「家(やー)」に由来します。

「雨端」とは、琉球の伝統的な建築物の東側や南側にしつらえられる庇(ひさし)の下の空間のことで、強い日差しや横殴りの雨、台風などから家を守る構造を指します。同時にこの風が抜ける日陰の屋外空間は、年間を通して蒸し暑い沖縄でとても居心地が良く、縁側に腰をかけてお茶を飲みながらユンタクしたり、ちょっとした農作業をしたりと、古くから生活空間の一部になっていたそうです。「家主が縁側に置いたサンピン茶と黒砂糖を、通りすがりの人が自由に飲み食いして腰をかけて休んでよかったんだ。雨端はそういう憩いの場や交流の場でもあったんだよ」と、一昔前を懐かしむ年配者から聞いたときに、何てすてきな習慣なのだろうと感激したので、そのような習慣を現代風に再現したいという私の想(おも)いも込めました。

山城は人口増加が顕著な市街地から車で10分と離れていない距離にありながら、少子高齢化と過疎化によって限界集落化が進んでおり、現在では約50世帯100人にまで減少しています。そのような集落において、私は住民として初めてのヤマトンチューであり、建物は初めての共同住宅になりました。自治会とすればいろいろな意味で心配、警戒をしたと思いますが、草刈りに通ったり伝統的なウチナー家を建てていたりするのが見え始めた頃から、周囲の見方が少しずつ変わってきたように感じています。
 

「山城のあまはじや」の庭につながる雨端部分。建物周囲に塀を設けていないこともあり、通りすがりのご近所さんは庭からこの雨端を通って訪ねてくることも多い。夏には深い軒が心地よい影を作り、涼風を招く
「山城のあまはじや」の庭につながる雨端部分。建物周囲に塀を設けていないこともあり、通りすがりのご近所さんは庭からこの雨端を通って訪ねてくることも多い。夏には深い軒が心地よい影を作り、涼風を招く

建築家・伊礼智さんの実測スケッチ。北中城村にある中村家の雨端部分で「魅力的で沖縄らしい空間。内外が緩やかにつながり曖昧になるところがいい」と伊礼さん(伊礼智設計室提供)
建築家・伊礼智さんの実測スケッチ。北中城村にある中村家の雨端部分で「魅力的で沖縄らしい空間。内外が緩やかにつながり曖昧になるところがいい」と伊礼さん(伊礼智設計室提供)

縁側に腰かけサンピン茶でひと休み
縁側に腰かけサンピン茶でひと休み


公民館やマチヤグヮーのように

共同売店やマチヤグヮーが無くなりつつあるように、過疎化の進む地域の公民館でも、本来の役割が減ってきているように思います。周辺住民が減ったことで年中行事ができなくなったり、子どもが少なくなったりする中で、住民同士のご近所づきあいも希薄になっていって、日常的に人が集まる場所ではなくなってしまったようです。山城集落も同様で、集落センターの広場で遊ぶ数人の子どもの姿を見かけることはありますが、その場に大人の姿はありませんし、あとは週1回のデイサービスの日に訪問販売車が来る時と年中行事の時以外では、全く使われない場所になってしまっています。

雨端が家の中と屋外を緩やかにつないだように、「山城のあまはじや」がアパート住民と集落住民をつなぐことができれば、かつての公民館やマチヤグヮーが担ってきたような、集落住民と他地域からの来訪者をもつなぐ役割を、アパートの住民が果たせるかもしれないと考えています。その結果として集落での情報や物資、労働などが、適切に共有や分配され、住民同士が助かったり集落が保全されたりすることを願っています。
 


もりたに・みつひろ
1966年東京都世田谷区出身。2007年より沖縄県在住。「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー 兼 管理人 兼 住人。糸満 海人工房・資料館を運営するNPO法人ハマスーキ理事。2020年、小規模土地分譲『等々力街区計画』の街区デザインでグッドデザイン賞受賞


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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1949号・2023年5月12日紙面から掲載

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