お住まい拝見
2024年11月22日更新
[お住まい拝見]緑眺め おこもり感も|(株)一級建築士事務所 斎
[北側リビングで人目気にならず]人通りの多い通学路に面し、3方に家やアパートがあるUさん(43)宅。室内はそんな立地を忘れるほど人目を気にせず、くつろげる空間に。床から30センチ下がったサンクンリビングを北に配したことで、緑や空、おこもり感も楽しめる。
収納に腰掛けに
段差活躍 広々と
Uさん宅
RC造/自由設計/家族4人
Uさんが家づくりで「絶対取り入れたかった」ことの一つがサンクンリビングだ。「1段下がっているのでおこもり感があっていいなと。段差は収納に使えて腰掛けられるから家具も置かなくていい。家のアクセントにもなるしね」と多くのメリットを感じたのが理由だ。住まいはそのサンクンリビングから真っすぐつながるLDKを軸に、東に個室、西に水回りとクローゼットを配置した。
実際、大物家具はテーブルだけで済んでおり、やんちゃ盛りの子ども達が走り回っても十分な広さがある。Uさんが気に入っているのは大窓いっぱいに広がるリビングからの眺め。「下に座って段差にもたれると緑と空に目が行く。この景色を遮りたくなくて、外のフェンスもサッシと同じ黒に。正解でした」。リビングは、西側の壁1面を床材とそろえたことで、より目を引く空間となった。
キッチン側から室内を見る。北側に置いたリビングは床を30センチ掘り下げたサンクンリビングに。段差を活用した収納内部は目立たないよう、黒色の材で仕上げた。間接照明は天井懐に、空調は壁に収めてスッキリ
子ども室。2部屋に仕切ったり1部屋にしたりLDKとつなげたりと、柔軟に使える
やりたいこと明快に
敷地は住宅が密集する傾斜地の一角。南の前面道路は通学路で朝夕人通りが多く、東隣は2階建て住宅、道向かいはアパート、西隣には実家がある。Uさんは「実家は南向き。緑のある北向きならカーテンを閉めなくていいのにと感じていた」という。
結婚し、敷地を探すうちに地価や建築費が高騰。諦めかけた矢先、売りに出たのが今の敷地だ。「大きいなと思いましたが『土地は引き継げるから大きいに越したことはない』と父に背中を押されたこと、何より納得のいく土地に巡り合う大変さを実感していたので、思い切って購入しました」。プランはウェブで気になっていた建築士に依頼。人当たりの良さと、北向きでも「問題ない」と快諾してくれたのが決め手になった。
床は無垢材にし、独身時代から続けているジャズベースの収納スペースも要望。一方で個室は一部屋3・5帖にしぼりクローゼットの棚はDIY、シンボルツリーはネットで探して自分で植えた。
「やりたいことがやれた」と満足そうに笑うUさん。明快なこだわりが、夢実現につながった。
テラス側から見た室内。隣の子ども部屋との仕切りは可動式のつり戸に。子どもが小さい今は開け放して広々と使っている
ここがポイント
北向きの利 生かす大小の窓
西側から見た外観。軒を張り出し、外壁と袖壁を一体化させたデザインがスタイリッシュ。両隣りからの視線を気にせずに済む工夫の一つ。屋根には太陽光を搭載、EV車の充電口も設けられている
Uさんが望んだのは、大きく①サンクンリビングの活用と、②緑が見える北向きに、の2点。採光・通風はもとより、隣家や通りからの人目を気にせず暮らせる工夫が求められた。しかも敷地は南の前面道路より50センチほど高く、北側の緑地帯とも高低差があった。そこで一級建築士事務所斎の玉那覇昇一さんは「北側に新たによう壁を設けずに済むよう、道路側を掘削して駐車場にし、建物は敷地中央に収まるボリュームで計画。サンクンリビングから緑地帯を望むよう北に開き、LDKを軸に東西に個室と水回りを振り分けた」と説明する。
北向きで懸念される「日当たりの悪さ・暗さ・湿気」を解消し、景色を楽しみつつカーテン不要で暮らせるカギは開口部にある。「北側は直射日光が差し込まず、1日中安定した光を取り込めるメリットがある。その北側にメイン採光部となる大きな掃き出し窓を設け、東の個室は小さめの腰窓にしてすりガラスで目隠し。南にあるキッチン外には坪庭を配し、そこに向けて小窓を作ることで、通りからは目隠ししつつ通風も確保した」。掃き出し窓や建具は天井と高さをそろえ、軒までつなげたことも、景色を際立たせる仕掛けの一つ。軒と外壁を一体化させたテラス両脇にある逆三角形の目隠し壁は、安心感につながっている。
サンクンリビングは、腰掛けられる高さを意識し、床を30センチ掘り下げて実現。段差は収納として活用している。室内はリビング西の壁1面だけを床と同じチーク材で仕上げ、他は白でまとめることで、明るさの中にも落ち着いた雰囲気を演出した。また子ども室の壁は固定せず、ライフスタイルの変化に対応できる造りに。LDKと水回りは効率の良い回遊動線を採用した。
西側にある水回り。キッチンやリビングダイニング、クローゼットと行き来できる。浴室は夫人の希望でクッション性のある床を採用した
玄関。正面の合わせガラスの奥に坪庭があり、暗くなりがちなエントランスも明るく
通りから見た外観。塀は設けずオープンに。門扉前の緑も通りを行き交う人の目を楽しませている。正面の黒いルーバーの奥が坪庭
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども2人
敷地面積:268.39平方メートル(約81坪)
1階床面積:87.48平方メートル(約26坪)
建ぺい率:38.16%(許容60%)
容積率:32.6%(許容200%)
用途地域:第一種中高層住居専用地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造壁式
設計:(株)一級建築士事務所 斎
玉那覇昇一
構造:(株)翔光プラン 西筋義憲
施工:(株)ライフコーポレーション
山城達也
電気:喜友名電気 喜友名盛久
水道:(有)ライフ工業 我喜屋奨
◆問い合わせ
(株)一級建築士事務所 斎
電話=098・996・3512
撮影/矢嶋健吾 文/徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2029号・2024年11月22日紙面から掲載