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2024年9月6日更新

[お住まい拝見]歴史と文化を紡ぐ家|クロトン設計

[集落景観と調和する琉球民家]
沖縄の昔ながらの風景が残る集落で祖母の家を建て替え、木造の琉球民家を新築したSさん(52)。「風景との調和」を大切にした家で、家族と共に地域の歴史と文化に想いを巡らせ、おおらかに暮らす。

南側からの外観。赤瓦の屋根が緑に映える。背後は、集落のクサティムイ(腰当森)で、東側(写真右側)には神屋がある。屋敷囲いの石積みは、琉球王朝時代に築かれた
 

祖母の家と同じに

Sさん宅
 木造/自由設計/家族6人 

宜野座村にあるSさん宅は、緑深い森と青空に赤瓦の屋根が映える琉球民家。冷たい北風を防ぐ役割を担う、集落のクサティムイ(腰当森)を背に建つ。御嶽(うたき)や拝所の隣にあり、琉球王朝時代に造られた石積みが屋敷を囲う由緒ある家。祖母の家を建て替えて新築するにあたりSさんが重視したのは、周りの風景との調和だった。「文化財を再現するイメージ。最初は、自分の家を建てている感覚はなかった」と笑う。

見た目も間取りも、昔ながらの祖母の家を再現。南側の庭に面して一番座、二番座があり、その背後に寝室と子ども室が配置されている。玄関はなく東側、南側の大きな掃き出しから直接、出入りする。家事や生活のしやすさを考慮し、別棟だった水回りは室内に設けてもらった。「行事で集まる親族にも、昔と変わらないスタイルで過ごしてほしかった。おじさんたちも、懐かしいと喜んでくれました」


居間から二番座、一番座を見る。パブリック空間である一番座、二番座と台所がL字に配置されている。ダイニングテーブルの奥にあるドアが寝室への出入り口​


二番座から庭を見る。掃き出し窓との間には廊下があり、障子で仕切れるようになっている

天井板を張っていないため、開放的。居間の立派な太鼓梁は、子どもたちの遊び場にも。「登って歩いたり、ぶら下がったり、アスレチック感覚で楽しかったよう。おかげでうんていも得意になりました」

Sさんも、木の香りを感じ、梁を眺めながら酒を飲むのが楽しみだったそう。


居間と台所の天井。柱をつなぐ大きな太鼓梁が印象的。太鼓梁を3層に組んで、大空間を支える強度を高めている


地域を知る機会に

祖母の家は、築60年超で老朽化。近隣で暮らしていたSさんは、長男だった父親の「家を守ってほしい」という遺言を受け、自宅として建て替えることを決めた。地元の後輩に、琉球民家を手掛ける建築士を紹介してもらい、設計を依頼。工法も昔ながらの貫づくりで、「職人さんたちも楽しそうに作業をしていて、工事を見に来るのが楽しみだった」と振り返る。

家づくりは、「地元を深く知る機会にもなった」とSさん。建て替えた家に暮らして3年。庭では子どもたちの友人が集って遊ぶ。「孫世代が戻って来る地域づくりの助けになれば」とほほ笑む。


庭から母屋を見る。掃き出し窓の大開口が、玄関代わりの出入り口。高さがあるため、縁台をうまく活用する


ここがポイント
維持・管理しやすく


屋根瓦は、メンテナンスもしやすいS形瓦を採用。本瓦より軽量で、桟(さん)にビスで固定するため耐風、耐震性がある。風が当たる棟部分は、保護と化粧を兼ねて琉球漆喰(ムチ)でおおっている

集落景観との調和を目指した昔ながらの琉球民家を新築するにあたり、設計を手掛けた建築士の下地洋平さんは、伝統的な造りや工法を受け継ぎながら、メンテナンスがしやすい設計を目指した。

建物の配置は、元々の住宅が建っていた位置と大きさを考慮。地盤が硬く、良好だったため、立ち上がりのないフラットな基礎にした。立ち上がりがない分、コストダウンにもなる。「基礎のひび割れ対策はシロアリ対策ともつながるため、鉄筋を15センチ間隔で設置。コンクリート打設後に水を張り、冠水養生を行いました」と下地さん。


基礎の上に柱を建て、高床にした。網を取り付け、風を通しながら動物などの侵入を防ぐ

また、建物は基礎から60センチの高床にし、床下の風通しを確保。床下の状態を目視しやすく、人が入ることもできるのも利点だ。骨組みは、強度を高めるため昔ながらの貫工法(柱と柱の間に「ヌキ」と呼ばれる木材を入れ、クサビを打って固定する工法)と、筋交いを併用している=下写真


クサビで固めた貫(柱を貫通させ、くさびで固めた横木)。昔ながらの技法を残す役割も
 

貫工法と筋交いを組み合わせて骨組みを強化(建築士提供)


屋根は天井板を張らず、野地板をあらわに。「天井板を張らないことで、雨もりした時も原因箇所を突き止めやすい。室内の温度上昇を考慮して、屋根に断熱材を施しました」

間取りはSさんの希望通り、祖母の家と同じに。一家が大切にする仏壇は、元の家のものを採寸し、奥行きなどを合わせて造作。昔ながらの間取りであるがゆえに制約される収納については、屋根裏も活用できるよう工夫した。


家の一番東に位置する一番座。畳敷きで床の間と仏壇があり、二番座から居間まで一直線に視線が通る。夜は子どもたちの寝室として活用


明るく開放的な二番座。床をスギの板間にしているため、廊下までひと続きで使える。仏壇は使い勝手を考慮し、奥行きは昔の家のサイズに合わせ、棚高を下げて造作した


[DATA]
家族構成:夫婦、子ども4人
敷地面積:629.69平方メートル(約190.5坪)
1階床面積:95.04平方メートル(約28.76坪)
建ぺい率:17.72%(許容70%)
容積率:15.09%(許容400%)
用途地域:指定なし
躯体構造:木造
設計:クロトン設計
   下地洋平、比嘉雄大(在籍時)
施工:上地工務店
電気・水道:漢那電気設備(合)


問い合わせ
クロトン設計
電話=098・877・9610
https://croton.jp


撮影/矢嶋健吾 文/比嘉千賀子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2018号・2024年09月06日紙面から掲載

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週刊タイムス住宅新聞編集部

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