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2024年8月23日更新

[お住まい拝見]音楽ホールのある家|(株)山口瞬太郎建築設計事務所

[ギャラリー、オフィスにも]
高宮城さん(64)は音楽家、夫人は美術家。床面積約30坪のうち10坪を占める音楽ホールは、建物の核となる空間だ。コンクリート打ち放しのシンプルな箱は、ギャラリーやオフィス、ワークスペースへ、自在に変化する。

天井高3.6メートルの音楽ホール。フィックス窓から、よう壁に視線が抜ける。エアコンは木の扉で隠して壁と一体的に収め、柱や梁は見せずにスッキリと仕上げた
 

50年先も残る建物に

高宮城さん宅
 RC造/自由設計/家族5人 

「がらんどうの箱が欲しかった」と夫人。住宅は、長方形の箱を三つ並べたような外観だ。中央の玄関から左手に入ると音楽ホール。右手にはダイニングキッチン、その隣に寝室が続く。「寝室から音楽ホールへ移動すると、同じ建物なのにこんなに風景が変わるのかと驚く。気分も変わっていく」

音楽ホールは天井高3.6メートルの広々とした空間だ。高宮城さんは「響きが良くて演奏しやすい」と楽しげ。夫人は「夫婦で経営する芸術系の会社の仕事場としても使っています。音楽や美術、産業などが緩衝し合う空間にしたいと建物を『Buffer』と名付けました」と話す。
 

音楽ホールでは、コンサートのほかセミナーも開いた(写真は高宮城さん提供)
 

玄関扉は木枠のガラス戸。壁面に建物名「Buffer」が記されている


音楽ホールと寝室をつなぐダイニングキッチンはプライベートとパブリックの中間的な空間だ。「音楽ホールを使う時には、楽屋になる。誰でも使いやすいように、オープンな収納にしています」
 

ダイニングキッチンは、よう壁が周囲の視線を遮り、カーテン要らず。設計した山口さんは「よう壁が風景の一部になるといいと思った」と話す


長女は県外に進学していて、寝室は高校3年生の次女と小学2年生の三女、夫婦が区分けして使っている。棚は、夫人がDIYで造作した。「これまでも、子どもの成長に合わせて家具を造り替えてきました。解体できるように造っています」

 

一瞬一瞬が豊か


家造りのきっかけは、「10年、20年先も音楽、美術活動を続ける拠点がほしい」と思ったこと。「住宅以外の空間を作ることで、建物の可能性を広げたい」と事業用物件も設計する事務所を探していた。気になっていた建築事務所を訪れた際、心引かれた福祉施設を設計したことを知り、設計を依頼。土地探しから相談し、家造りを進めた。

完成して1年。住み心地を聞くと、「とても楽しい」と夫人。「窓から見える緑や玄関ホールに差し込む光、一瞬一瞬が豊か。壁も一枚一枚違い、眺めていて飽きない。ただ、冬は底冷えするので、ムートンブーツを着用。暑さ対策には、よう壁にフジの花を這わせようと思っています」と、工夫を楽しんでいる。
 

トップライトから光が差し込む玄関ホール。夫人が一番好きな空間だ


予算が限られていたため、専門業者に直接発注する分離発注方式を採用。建築事務所や専門業者と食事会をしたり、工具を使ってコンクリートを研磨したり、積極的に家造りに関わった。「たくさんの人のおかげで完成した家。その過程を見ていた三女が『将来、建築家になりたい』と言うようになったんです」

家づくりを考えたとき、思いをはせたのは未来だった。「私はいないかもしれない50年先の街に、あったらいいなと思う建物にしたかった」
 


ここがポイント
「公と私」分ける三つの箱
 

周囲は住宅地。建物は、空間ごとに天井の高さを変えている。外壁や床の塗装は建築事務所のスタッフと夫人が行い、コストダウンにつなげた

 

住宅密集地に立つ住宅は、西が道路、南と北に住宅、東をよう壁に囲まれている。プライバシーを確保できる東に大きく開き、空間に広がりを持たせた。

設計した山口瞬太郎さんは「高宮城さんの一番の希望は、20人入る音楽ホール。子どもたちのためにプライベートとパブリックを分ける必要があり、三つの箱を南北に並べて、その間に玄関、水回りを配置しました」と説明する。3分の1を音楽ホールとし、残り20坪に家族の居住スペースを集約した。「小さいけれど天井を高くすることで、アトリエのような空間にしました」

また、予算を抑えるために効率的に設計。型枠のサイズ(90センチ×1.8メートル)を生かし、無駄を省いた。例えば、音楽ホールは高さ3.6メートル(型枠横向き4枚分)、ダイニングは3.15メートル(同3枚半)だ。カット数を減らすことで組み立てやすく、工期が早まるという。壁、床、天井は全面コンクリート打ち放しにして、クロス張りや木張りなどの工事の種類を削った。

収納と仕切りを省いたシンプルな空間は、多用途に使える。「高宮城さんの『工夫して住む』という大らかな姿勢があってこその住まい。住宅の枠を超え、長く残る建物になることを願っています」

 

寝室。棚は夫人がDIYで造作。壁面のPコンの穴を生かして、棚を固定している。階段は外へつながっている
 


寝室、次女のスペース。子どもの成長に合わせて、空間の使い方は変えていく予定だ

 

トイレ、浴室もコンクリート打ち放し。「タイルの目地の掃除から解放されました」と夫人。床面や壁面の角は研磨されており、なめらか
 

 


[DATA]
家族構成:夫婦+子ども3人
敷地面積:204.79平方メートル(約61.94坪)
1階床面積:97.53平方メートル(約29.5坪)
建ぺい率:48.96%(許容60%)
容積率:47.62%(許容160%)
用途地域:第一種住居地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造
設計:(株)山口瞬太郎建築設計事務所
     山口瞬太郎、高橋茉依
構造:(株)濱川構造設計
施工:(株)大興建設
電気:(同)屋宜電気工事
水道:(有)島設備


問い合わせ
(株)山口瞬太郎建築設計事務所
電話=050・3365・7595
https://yoaa.jp/


撮影/矢嶋健吾 文/栄野川里奈子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2016号・2024年08月23日紙面から掲載

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週刊タイムス住宅新聞編集部

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