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2022年8月19日更新

[沖縄・お住まい拝見]洗練のうちなー家|平田寬建築設計事務所

[開放的な木造 庭から来客]黒の外観とコンクリートのひんぷんがスタイリッシュな島袋源也さん(34)宅。一方、室内は木を多用した温かみのある空間。庭とつながる「表座」と、プライベートな「裏座」に分かれている。

木造平屋の島袋邸。コンクリートのひんぷんが敷地をゆるく仕切り、南東側の大開口を守る。庭から訪ねてくる客が多いそうだ
木造平屋の島袋邸。コンクリートのひんぷんが敷地をゆるく仕切り、南東側の大開口を守る。庭から訪ねてくる客が多いそうだ


木ふんだん優しい空間

島袋さん宅
木造/自由設計/家族6人

南東の庭に大きく開く、木造の平屋。マットブラックの外観がサトウキビ畑に映える。おしゃれな外観ながら、人々が庭から訪ねてくる“うちなー家(やー)”的な造りが島袋邸の魅力だ。

34歳と若い施主夫妻だが、「どこでも撮ってください」「アイスコーヒーでもどうぞ」と、おおらか。4人の子どももカメラを気にすることなく普段通り。来客に慣れている。それもそのはず「毎週、いや週2で両家の親が遊びに来るんです」と笑う麻美夫人。

LDKは縦長で仕切りがなく、庭とつながるオープンな造り。対面式のキッチンは、夫人こだわりのオーダーメードだ。前面の収納に、居酒屋さながら多種のお酒が並ぶ。ダイニングでは大人たちが乾杯し、手前のリビングでは子どもたちがテレビに集中する。

ダイニングテーブルとベンチは、夫人の祖父から譲り受けたセンダンとリュウキュウマツで造ってもらった。10人は座れる大きなテーブルは、家族や来客の多い島袋邸にぴったりだ。

造作家具を含め、設計したのは夫妻の同級生の建築士。3人とも、生まれも育ちも宜野座村だ。源也さんは「他の建築士にも話を聞いたけれど結局、同級生にお願いした。祖父からもらった木を使いたいとか、建築費の相談にも丁寧に応えてくれた」と話す。

南東の庭とつながる開放的なLDK。オープンだが縦長のため、家事や食事、テレビ鑑賞など家族それぞれ自分のやりたいことに集中できる
南東の庭とつながる開放的なLDK。オープンだが縦長のため、家事や食事、テレビ鑑賞など家族それぞれ自分のやりたいことに集中できる


床などは家族で塗装

アパートが手狭になり、親から譲り受けた土地にマイホームを計画。「鉄筋コンクリート(RC)造は高騰しているし、木造でもいいかなって。台風時の心配はあったけど、建築士とやりとりする中で解消された」と話す。RC造にするより安く済んだ分、「キッチンや造作家具に費用を掛けられた」。

床やひんぷんの仕上げ塗装は家族で行った。「コスト削減になるから、と建築士に勧められた。重労働だったけど、お金は必要なところにしっかり掛けたかった。おかげで自慢の家になった」と笑顔で話した。

木をふんだんに使ったオーダーメードのキッチン。ダイニングから手が届く、前面の収納にはお酒などをしまっている
木をふんだんに使ったオーダーメードのキッチン。ダイニングから手が届く、前面の収納にはお酒などをしまっている
 

夫人の祖父から譲り受けたセンダンで造った大きなダイニングテーブルとリュウキュウマツのベンチ(左側)。家族のだんらんや来客をもてなす時にも欠かせない

夫人の祖父から譲り受けたセンダンで造った大きなダイニングテーブルとリュウキュウマツのベンチ(左側)。家族のだんらんや来客をもてなす時にも欠かせない

 

ここがポイント
表と裏で明暗・広狭

周囲はサトウキビ畑。風などを遮る建物のない場所で、木造住宅の要望。島袋邸を手掛けた建築士・平田寛さんは「台風対策を第一に考えた」と話す。建物は風の影響を受けにくい平屋のシンプルな箱型にし、庭側の大開口はコンクリートのひんぷんや植栽で守る。「吹き上げる風への対策として、庇を短めにしている」と説明する。

さらにLDK(庭側)以外の窓は、必要最小限にした。「人が集う『表座』は広く明るく、プライベートな『裏座』はコンパクトで暗めに。台風対策に加えて各部屋の役割を考慮しながら、メリハリを付けた」。

例えば長女の部屋は3・5帖。息子3人の部屋も6・3帖と狭いが、窮屈ではない。「屋根を片流れにし、天井が高いところにプライベート空間をまとめた。天井高は3メートル確保している」

もう一つの要望は「祖父から譲り受けた木材での家具製作」。その木材は、県産のセンダンやリュウキュウマツで「個性が強く、虫食い跡や割れがあって扱いは難しかった。正直、新材の方がきれいな家具が作れたかもしれない」と話す。しかし、「『子や孫が家を建てるときのために取っておいた』との思いが込もった木材。施主にとっては何よりも価値があると考え、生活の中心となるダイニングテーブルとベンチを制作した。これほど大きなテーブルは、既製品ではあまりない。島袋邸にマッチした家具となった」と話した。
 

外壁は設けず、ひんぷんでゆるく仕切る。建物は北西から庭側に向かって低くなる「片流れ」。天井高は最高で3メートル、一番低いところは2.3メートル 外壁は設けず、ひんぷんでゆるく仕切る。建物は北西から庭側に向かって低くなる「片流れ」。天井高は最高で3メートル、一番低いところは2.3メートル

ひんぷんの高さは1.8メートル。道路側の視線をギリギリ遮る高さ。室内にいても、道路の様子は気にならないひんぷんの高さは1.8メートル。道路側の視線をギリギリ遮る高さ。室内にいても、道路の様子は気にならない

8歳、6歳、3歳の息子の部屋。3男はまだ部屋を使う機会は少ない。6.3帖とコンパクトだが3メートルある天井高が窮屈さを払拭
8歳、6歳、3歳の息子の部屋。3男はまだ部屋を使う機会は少ない。6.3帖とコンパクトだが3メートルある天井高が窮屈さを払拭
 

 

小学5年生の長女の部屋は3.5帖。窓は最小限。「一人部屋ができてうれしい。ダラダラしたり宿題をしたり」自由に過ごす

小学5年生の長女の部屋は3.5帖。窓は最小限。「一人部屋ができてうれしい。ダラダラしたり宿題をしたり」自由に過ごす

祖父から譲り受けたセンダン。厚みや耳の部分をカットし、ダイニングテーブルを作成した
祖父から譲り受けたセンダン。厚みや耳の部分をカットし、ダイニングテーブルを作成した


[DATA]
家族構成:夫婦+子ども4人
敷地面積:425.30(約128坪)
1階床面積:95.85(約28.99坪)
建ぺい率:25.88%(許容70%)
容積率:22.53%(許容400%)
用途地域:未指定
躯体構造:木造
設計:平田寬建築設計事務所 平田寛
施工:佐藤建築 佐藤雅昭
構造:掘田敏也
電気:(同)未来電気設備
水道:(有)當山設備興業
家具製作:(有)大和産業
玄関建具:玉城木工商店
植栽:HADANA

問い合わせ
平田寛建築設計事務所
電話090・1179・0099
https://hiromuhirata.com/


撮影/比嘉秀明 取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1911号・2022年8月19日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
東江菜穂

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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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