中庭に開く安らぎの木造|石躍健志建築設計事務所|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2021年2月12日更新

中庭に開く安らぎの木造|石躍健志建築設計事務所

[台風やプライバシーにも配慮|お住まい拝見]
石嶺さん(40)は「一緒に年を取る家」を望み、木造にした。台風やプライバシーを考慮して外周は窓を最小限にし中庭に開く。22坪のコンパクトな平屋で家族4人と愛猫2匹が伸びやかに暮らす。

駐車場から見た石嶺さん宅。門扉を開けて入ると目の前に中庭がある。中庭を囲むコの字型に居室が設けられている。写真右側がLDKのある「リビング棟」。左側が寝室や子ども室がある「個室棟」。リビング棟の方が、約70センチほど天井が高い
 

家族の顔が見える家

石嶺さん宅
 木造/自由設計/家族4人 

ガラガラと門扉を開けると目の前に庭園が現れる。スミレやシダなどなじみの植物も顔を見せる庭は、「やんばるの河原をイメージして造ってもらいました」と石嶺さん。

居室は、その中庭をコの字に囲む形で設けられている。中庭に面する部分はすべて窓。全開にすれば、居室丸ごと縁側のようになる。

取材日はすっきり晴れた1月末日。午前10時から正午までの間に、リビングへ差し込む日だまりが徐々に大きくなっていった。愛猫の「ねがえり」が、ぽかぽかのソファで居眠り。「冬場は中庭から入る日が床暖房代わり。夕方までに床の半分以上に日が当たる。夏場は真上から日が差すので、軒が遮ってくれると思う」。住み始めて3カ月。カーテンを付けず日の移ろいを体感する。

LDKと子ども室は中庭を挟んで対面する。自室で工作に没頭する娘たちをダイニングから見つめる夫人。「希望した通り、どこにいても家族の顔が見える」。2人の娘も2匹の猫も、自分時間を存分に楽しんでいた。


中庭から室内を見る。庭師の友人が造った庭園は土を敲(たた)き固めた三和土(たたき)と石、植栽で構成。滋味溢れる雰囲気で、温かな木造空間とマッチしている


北側のリビング棟から、南側の「個室棟」を見る。窓の開閉にかかわらず、それぞれの棟から互いの姿が見え声が聞こえる
 

ダイニングとリビング。写真左側の本棚やテレビ台などは造り付け。「棚としても、スタディースペースとしても、ベンチとしても使えるように余白を残した造りにしてもらった」と夫人

コの字型の間取りの中央部(短辺部)には和室がある。洗濯機のある脱衣所と、洗濯物干し場にしている中庭の間にあり「今は洗濯を畳んだり、アイロンを掛けたり家事室として使っています」と話す
 

将来見据えた22坪

読谷村の実家そばの敷地に新築した。木造を選んだのは「私たち夫婦と一緒に年を取り、循環する家にしたかった」から。娘たちが巣立つこと、かつコストを抑えるため建坪は約22坪に絞った。

建築士は庭師をする友人からの紹介。「宮崎県の建築士さんで、面白い家を建てると聞きお願いした。木造の良さを生かしつつ、沖縄特有の気候にも配慮してくれた」。

中庭に開く造りは、台風対策でもある。外周の窓は少ないが「おかげで前面道路や、近接する実家に気兼ねせず窓を開けられる」。

帰宅するたび、幸せをかみしめる。「家に入る前から、中庭越しに料理する妻が見え、娘たちの声が聞こえる。すごくほっとするんです」。見える安心感と見えない安心感のバランスが取れた石嶺邸だった。
 


外観。外回りは「窓が少ないため、『倉庫が建つのかと思った』とよく言われました」と夫人。後ろ側に近接するのは石嶺さんの実家


寝室から子ども室側を見る。間仕切りには引き戸を多様。開けていれば大きなワンルームのようになる。中庭から入る光と風が家中を巡る。シンプルな造りで「娘たちが巣立っても柔軟に使えるようにしてもらった」


中庭は洗濯干し場も兼ねる。建物にフックが付いていて、物干しロープの着脱が可能。夫人は「中庭の四角に切り取られたような空を見るのが好き」と笑う

 

ここがポイント
外周部閉じ天井低く

石嶺さんが希望した「家族の顔が見える造り」を木造平屋で実現するにあたり、建築士の石躍(いしおどり)健志さんは「高さを抑えた箱から中心(中庭)をくりぬいた形」を提案した。

天井高を低くしたのは、「台風の影響を少なくするため」。子ども室や寝室などの個室がある南側の天井高は2メートル20センチ。「リビングまで低くすると圧迫感が出るので、LDKのある北側は少し高くした」。片流れ屋根で、一番高いところは約2メートル90センチほどある。「しかし、高くすると風圧に弱くなる。そのため、建物の外周部は窓を最小限にして、耐力壁を可能な限り設けて耐風性を増している」

外周部の窓の少なさを、中庭がカバーする。「居室と中庭の間はすべて窓にし、採光と通風を確保した。特にリビングに面する窓は、全開できる特注の木製窓を設置。庭との一体感が得られるようにした」

夏場の暑さ対策には「大きなワンルームが理想。空間の体積を大きくすれば風や湿気が室内を巡り、抜けていく」としながらも、台風に耐えるための外形や建築基準法上の問題で難しかった。そこで「壁で仕切るのではなく開閉できる引き戸を多用した」。開けっ放しにすれば、風や光の通り道を確保できる。「そして、中庭を介してすべての空間が緩やかにつながるようにした」

宮崎県を拠点に設計を手掛け、木造住宅は建て慣れている。沖縄は「内地に比べ、木造を建てるには過酷な環境下にあるが、沖縄らしい木造住宅の一つを提示できたのではないか」と話した。


 

[DATA]
家族構成:夫婦、子ども2人、猫2匹
敷地面積:161.46平方メートル(約48.84坪)
1階床面積:74.30平方メートル(約22.47坪)
建ぺい率:47.36%(許容51.51%)
容積率:46.01%(許容107.56%)
用途地域:第一種低層住居専用地域、
     第二種中高層住居専用地域
躯体構造:木造在来工法
設計:(株)石躍健志建築設計事務所 石躍健志
施工:佐藤建築
電気:(同)未来電気設備
水道:(株)郁太興業
造園:庭と建築ハーベストハイ! 岩村浩生
キッチン:LITTAI METAL WORKS 仲地研二、(株)KiCHi 工藤大輔

問い合わせ
 石躍健志建築設計事務所
 電話0985・71・2026
 https://odr-a.com/


撮影/矢嶋健吾 取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1832号・2021年2月12日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
東江菜穂

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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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