お住まい拝見
2020年5月1日更新
棟を分けてほどよい距離|一級建築士事務所 STUDIO MONAKA
[お住まい拝見〕|高低差7メートルのくぼ地の底に建つ平良さん(39)宅は、棟を分けた造りや、中庭などにより、常に外を感じるリゾートヴィラのよう。家族6人がほどよい距離感で暮らす。
中庭。左手の子ども室は、中央のLDKや右手の寝室のある棟とは別になっている。子ども室とLDKの間が玄関スペースで、各部屋へは、中庭に面した木製サッシから直接出入りできる。
内外あいまいなヴィラ風
平良さん宅
RC造/自由設計/家族6人
ダイニングとリビング。中央奥の高窓から光が差し込み明るい。右手の通路庭を通り、階段を上った先にトイレや浴室がある
出入りは中庭から
沖縄市の住宅街。集合住宅の駐車場を抜け、スロープを下った先にあるコンクリート打ち放しの平屋。そこに平良さんと夫人(38)、小学生の息子3人、1歳の娘の6人が暮らす。
ポーチに面した玄関扉を開けるとすぐに中庭が広がり、その周りをLDKや寝室、子ども室がぐるりと囲む。かつての沖縄の住宅と同様に玄関らしい玄関はなく、各部屋には中庭から直接出入りする。 室内は、壁はコンクリート打ち放しだが、床のチャーギをはじめ、天井や造作家具、サッシまで木製で、やわらかい印象。約22帖と広いLDKでは「木とコンクリートのバランスが良く、とても落ち着く」と中庭を眺める平良さん。その周りでは息子たちが遊び回る。
一方、子ども室では娘が昼寝。中庭を挟んで離れのようになっているので、LDKにいる息子たちの声で起こすこともない。夫人は「中庭は外からの視線が気にならないので、カーテンは不要。だからキッチンから家中見渡せ、娘が起きてもすぐ分かる」と安心している様子。加えて「もう少し大きくなったときには、勉強にも集中してもらいやすいはず」と期待も込めた。
さらに、トイレや浴室も別の棟。LDKとつながっているものの、砂利敷きの通路庭を通り、階段も登る。ポーチから中庭、LDK、通路庭、水回りと、中と外が調和する様子に、平良さんは「沖縄らしくていいよね」と満足そうに話す。
ダイニングとキッチン。窓を開ければ中庭と一体化する。天井、床、窓枠も木製であたたかみを感じる
こもれる趣味室
4年ほど前、父から譲り受けた畑を用途変更し家造りを始めた平良さん。設計は夫人の弟でもある建築士に「個性的で、南国っぽい感じにしてほしい」と依頼した。
中でも平良さんが「これがなければ家は建てない」とまでこだわった趣味室は、外からしかアクセスできない造り。中には趣味のバイクや釣り道具などが置かれており、くつろぐスペースもある。「集中して作業したり、友人とバイクを眺めながらお酒を飲んだり」と、まさに「男の隠れ家」のような場所だ。ほかにも、週に4回のペースでバーベキューをしたり、夫人が女子会を開くこともある。リゾート地に立つヴィラで過ごすように、好きなことを多くの友人と共有しながら、思う存分楽しんでいる。
バイクや釣り道具などが詰まった趣味室。奥の小上がりになったスペースには、テレビやテーブルなどもある
ここがポイント
くぼ地でも明るく
屋根勾配で通風も
平良さん宅の敷地は、東西の高低差が約7メートルのくぼ地。しかも道路と接していなかった。
そこでまず、建築士の仲本兼一郞さんは、接道義務を果たすために、崖の上に立つ集合住宅の駐車場を位置指定道路として申請。その駐車場に、くぼ地の底にある住宅までのスロープをつなげることで解決した=2面平面図。
湿気があったり、光が入りにくいなど、低地ならではの課題に対しては、屋根の形を一工夫。「外側が高くなるよう勾配をつけることで、東から光が入り、風は湿気とともに西へと抜けやすくなる」と説明する=断面図。合わせて、上からの見た目をスッキリさせ、視線を遮るため「オープンになり過ぎないよう配慮した」という。
居室部分の中心には中庭を設け、より採光と通風を効率化。屋根のおかげで外からは見えないため、中庭に面した居室の窓も開け放てる。すると室内外が一体化し、平良さんの求める「リゾートのような」開放的な空間を演出することにもつながった。
また、下水道につながる排水の最終枡(ます)は、居室部分の地面より1・5メートル高い位置にあった。そのため、トイレや浴室などの水回りは別棟に配置。LDKとの間に通路庭も設けることで、それぞれが明確に分離されただけでなく、より外と中の関係があいまいにつながる非日常的な空間になった。
外観はコンクリート打ち放しだが、内装は「人が暮らす空間として落ち着く質感」である木を多用。天井はラワン合板、サッシは腐りにくく反りにくいアコヤ材、床には「硬く、シロアリや湿気に強い」というチャーギを使った。壁のコンクリートも、室内はあえて木目の出やすい普通型枠を使って木の質感を感じられるようにした。
集合住宅の駐車場から見た外観。大きな屋根や、低い位置にある軒のおかげで、室内はほとんど見えない
子ども室。離れのようになっていることもあり、「最初、子どもたちは怖がっていたけれど、今は全然。自立にもつながっているみたい」と夫人
通路庭。天井や東西の壁はガラスなので、光が入り、外の雰囲気も感じられる。砂利の上に敷かれた6個の琉球石灰岩は、6人の家族を表している
断面図
この記事の「お住まい拝見プラス」へ
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども4人
敷地面積:565.2平方メートル(約171坪)
1階床面積:114.6平方メートル(約34.7坪)
建ぺい率:23.79%(許容50%)
容積率:20.2%(許容100%)
用途地域:第一種低層住居専用地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造壁式構造
設計:(株)一級建築士事務所 STUDIO MONAKA 仲本兼一郞
構造:門藤芳樹構造設計事務所
施工:(有)大成プラン
造園:HARVEST HIGH! 岩村浩生
家具:enno 大橋力
[問い合わせ先]
(株)一級建築士事務所 STUDIO MONAKA
電話098-851-7711
http://studiomonaka.com/
撮影/比嘉秀明 取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1791号・2020年5月1日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 出嶋佳祐
これまでに書いた記事:224
編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。