屋根を環境装置に|風土と住まい⑦|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

家づくりのこと

家づくり

2023年12月15日更新

屋根を環境装置に|風土と住まい⑦

文/奥原和明(建築設計室ant主宰)

独立5年目になる私の事務所では、小さな住宅から中規模の共同住宅などの相談が主な業務になっています。

住宅の依頼者の場合、要望や敷地の条件などをもとに、性格の異なるプランを2、3案程度作成して選択してもらうという進め方をしていますが、昨今の社会情勢の変化に伴う物価・人件費の高騰について頭を悩ませながら、いかに快適で過ごしやすい住宅を提案できるかが課題となっています。

日常的に住宅の設計を行う中で気が付いたことがあります。

建築を構成する要素として 床・壁・天井がありますが、床については、間取りとの兼ね合いでおのずと機能的な間取りを優先することになり、また壁については部屋をつなぐための開口部が取り付き、床に従う関係性になります。その一方で屋根は自由に操作することができる唯一の要素であり、平面的な間取りだけでは解決できない問題を断面的に解決することができます。つまり、屋根は平面計画や隣室との関係性に縛られない要素であり、室内の環境を快適にするために利用できるファクターとなるわけです。
 
奥原さんの自邸の断面図。左の母屋と右の離れが庭を囲んでコの字型につながる

母屋のリビング。各部屋の天井をつなぐことで、中央のトップライトから入る光が家中へ。熱気は天井をつたってトップライトから外へ母屋のリビング。各部屋の天井をつなぐことで、中央のトップライトから入る光が家中へ。熱気は天井をつたってトップライトから外へ

離れのリビング。写真右側に母屋がある
離れのリビング。写真右側に母屋がある
 

快適な室内環境づくり 断面形状を工夫し解決

10年前に自宅を設計し2世帯住宅を建てました。コストを抑えつつ必要な部屋数を詰め込むと快適な住環境を整えにくくなることから、悩んだ結果、屋根の断面形状を工夫し解決する考えに至りました。

下にある図1の断面図を見ると分かるのですが、屋根を持ち上げることで、天井と壁が切り離されるため、南側の部屋から入った風は北側の部屋から抜けていく流れを作っています。また、勾配屋根とすることで暖かい熱気は天井の高い位置に集められ、換気扇により強制排気される排熱システムとしています。

ほかには屋根の頭頂部にあたる住宅の中央にトップライトを設けることで通常光が入りにくい北側の部屋へ自然採光を届けることができています。

10年住んでみた感想としては、天井がつながっているためテレビの音が奥の部屋まで聞こえるなどささいな問題はあるものの、風の通る間取りとすることで、どの部屋にいても快適で家族の気配を感じながら楽しく生活を送っています。


図1. 断面形状の工夫で室内環境を改善する考え方
コスト重視で部屋を詰め込むと、環境の悪い部屋ができてしまう

コスト重視で部屋を詰め込むと、環境の悪い部屋ができてしまう

 
部屋を分けて採光・通風を図るが③の部屋の風通しが不十分部屋を分けて採光・通風を図るが③の部屋の風通しが不十分

 
屋根を持ち上げ②と③の部屋の天井をつなげ、風通しを確保する屋根を持ち上げ②と③の部屋の天井をつなげ、風通しを確保する

 





おくはら・かずあき
1981年南城市生まれ。県内外の設計事務所勤務をへて、2018年に建築設計室antを開設。小規模の住宅や、共同設計による庁舎や公共施設などの設計に携わる。建築設計室ant 電話=098・943・1418

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1980号・2023年12月15日紙面から掲載

この連載の記事

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:2343

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る