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2023年11月17日更新

熱遮る境界の工夫 沖縄独自のルール|風土と住まい⑥

文・図/清水肇(琉球大学工学部建築学コース教授、県建築士会会員)

今、国は断熱性の高い住宅づくりを推進しています。断熱性を高めれば冬の暖房エネルギーを減らせる。とすれば、沖縄では夏の冷房エネルギーを減らせそうですから、結構なことに見えるかもしれません。


図1. 沖縄県の「気候風土適応住宅認定基準」の技術的工夫

 

冷房時は暖房時の裏返しではない

暖房の場合は内側の熱を外になるべく逃がさない、冷房の場合は外側の熱をなるべく中に入れない、一見、裏返しで理屈は同じように見えますが、暖房時の内側の熱と夏に外側から与えられる熱の性質の違いを考える必要があります。

沖縄の真夏に屋外のコンクリートの上を裸足で歩くと火傷をしてしまいます。コンクリート屋根の上面は毎日60度近くまで熱せられます。中と外で約30度の温度差がある状態で、熱の移動を少なくするための断熱をした上で冷房装置を使うことになります。

外部の熱の多くは日射、つまり輻射熱によって与えられます。人間であれば日傘をさして帽子をかぶるでしょう。まずは、建物が受けとめる輻射熱を少なくすることが先決です。これを遮熱と言い、断熱とは区別します。沖縄には年間を通じて平均風速の値が大きいという特徴があります。真夏の最高気温の観測値は33度程度。いったん、建物の外側で遮った日射熱は風に奪ってもらって敷地の外に逃がしていくことができるわけです。遮熱の方法は緑化、花ブロックからすだれまでさまざまな工夫が可能です=図3参照。

図3. さまざまな遮熱の方法



伝統民家の知恵を翻訳


沖縄県は「気候風土適応住宅の認定基準」というものを定めています。県のホームページでも見ることができるのですが、まだ、一般にはなじみがないと思います。この「認定基準」は周囲の緑化や屋根などの遮熱、間取りの工夫を含めた技術的な工夫を定めています。

建物の中と外の境界を「外皮」という皮に見立てて、断熱性、気密性を高める住まいが、今後、国によって推奨されていきます。これに対して、沖縄の「気候風土適応住宅」は、緩衝領域を持つ住まいです。何重、何段階もの柔らかい境界をつくって、ゆるやかに熱を遮りながらも、風を取り入れることができる。これは伝統的な沖縄の民家の知恵を現代住宅に翻訳したものと言えます=図2。

今の時点では「認定基準」は住まいづくりを強く誘導するものではありませんが、2025年以降は国の省エネ住宅基準が新築住宅で義務化される予定です。その際に高断熱型住宅以外の方法が認められるように考えられてきたのが「気候風土適応住宅の認定基準」です。建築の基準の多くは日本国内共通ですが、沖縄の風土に適したルールを築いていくことが大切です。


図2. 緩衝領域型住宅のイメージ






しみず・はじめ
1961年福岡県出身。1992年から琉球大学。NPO法人蒸暑地域住まいの研究会理事。一級建築士。沖縄県建築士会会員。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1976号・2023年11月17日紙面から掲載

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