庭・garden
2023年8月4日更新
思い刻む砂紋の海 枯れ山水と広い芝[プロがつくる庭]
小橋川さん宅(那覇市)
枯れ山水。地面に敷かれた豆バラスで砂紋の海が描かれ、約5坪の実面積以上に大きな世界が広がっているような印象
2世帯で異なる趣
庭眺め一人時間を満喫5年前、築50年ほどの建物を2世帯住宅に建て替えた小橋川ヨシ子さん(78)宅。アプローチには、以前の庭でも使っていたという年季の入った石やつぼが並ぶ。そこを抜けると、手前にヨシ子さん、奥に息子家族の住まいがある。
そんな小橋川邸で目を引くのがヨシ子さん宅の枯れ山水。岩山から流れ出た水が、つくばいを通り、波立つ砂紋の海へと広がっていくイメージだ。海に浮かぶ島ではツバキが枝を伸ばし「冬になると咲く赤い花が、琉球石灰岩の壁によく映えるんです」とヨシ子さん。
ここには昨年亡くなった夫・興謙さんの思い出も詰まっている。「庭が好きでいろいろな角度から座って眺めたり、ライトアップをしたりと、1人で物思いにふける時間を楽しんでいましたよ」と、庭に面したデッキで洗濯物を干すたびに思い出すという。
一方、息子宅の前や、両住まいに挟まれた中庭にあるのは芝庭だ。「息子家族とバーベキューをしたり、孫が縄跳びやプールで遊んでいます」と目を細める。建て替え前からの思い出が詰まった庭に、新たな思い出が刻まれていく。
アプローチ。以前の庭でも使っていた、興謙さんお気に入りの石やつぼが並ぶ
和室から見た様子。室内にいながら、中央の石やつくばいを正面から楽しむことができる
灯籠。コケが生え、長い歴史を感じさせる
建て替え前の庭(ヨシ子さん提供)
室内からも楽しめる景色
石敷いて手入れラクに以前は、今よりも広い庭で、花が咲く木を中心に楽しんでいた興謙さん。2世帯で暮らすための建て替えを機に、庭も「あまり手の掛からない和風の庭」に造り替えることにした。
相談を受けた造園会社・繁樹園の當間嗣泰さんは、石やつくばい、灯籠といった既存の素材を再利用した枯れ山水を提案。石やつくばいを組み直す際には正面を室内に向けることで、和室やリビングにいても庭を楽しめる造りにした。
最奥には、一株から複数の幹が伸びる、株立ちのシマトネリコで雑木を表現。背後の壁に使われている琉球石灰岩に合わせて、亜熱帯で育つシュロチクを植え、沖縄らしさも演出。足元のヤブランは、つくばいの手前に明るい色、奥に濃い色を配置することで、太陽の明るさや山の深さを感じられるようになっている。
砂紋で波を表現するため、枯れ山水には北部石灰岩の豆バラスを使用。アプローチ沿いに敷かれた石と同じ種類だが、サイズが違うため、統一感はありつつも印象は変わる。「草がほとんど生えないので、手入れもすごくラクになりました」とヨシ子さんは喜ぶ。
砂紋を作るレーキは、興謙さんが手作りした物。ヨシ子さんは「前は夫が砂紋を描いていたけど、今は私が見よう見まねでやっている。當間さんに『模様は自由でいい』と聞いたので、いろいろな模様を試してみようかな」と話した。
アプローチの最奥から門方向を見る。手前にある息子宅の前には「遊べる庭」として芝庭が広がる。ぬれ縁前のサクラは建て替え時の記念に植えた
以前の庭からあるクロキ。枝に着生したランや、つるされた鉢植えは、どれも興謙さんが手がけたもの。足元にアメリカンブルーを植栽した當間さんは「クロキのある和風の庭と芝庭との境目部分に当たるので、和と洋の雰囲気がなじむようにしている」と説明する
中庭。右がヨシ子さん宅、左が息子宅。シマトネリコの枝葉が互いの視線を柔らかく遮る
砂紋を描くときに使うレーキ。當間さんが使っているレーキを見て、興謙さんが手作りした
取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1961号・2023年8月4日紙面から掲載
この連載の記事
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 出嶋佳祐
これまでに書いた記事:224
編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。