庭・garden
2023年6月2日更新
植栽も色も豊か 懐深い自然の岩山[プロがつくる庭]
與那嶺昭さん・貞江さん宅(南城市)
與那嶺邸の庭の全景。迫力ある琉球石灰岩の石積みと赤瓦屋根の建物がよくなじむ。写真手前、芝生のように見える部分は手入れがラクなイワダレソウ
“お手伝いさん”が運ぶ種
摘んだ花で盛り花自然に囲まれた静かな集落。與那嶺昭さん(73)宅の敷地に入ってまず目を引くのが、高さ3メートルほどの石積みだ。大きな琉球石灰岩をいくつも積んだ大迫力の風景が視界いっぱいに広がる。そこに、葉の色が明るいオウゴンヒイラギをはじめ、クスノキ、ザクロなどの樹木や、妻の貞江さんが育てた花々が彩りを添える。
石積みを縫うように通る階段には散歩帰りの昭さん。「今日もよく咲いたね」など植物たちに声をかけながら、頂上に建つ赤瓦屋根の住まいへと上がっていく。
階段を上りきると、貞江さんの好きなハイビスカスが並ぶ。赤、ピンク、白、黄色と色とりどりで「お客さんが来た時には盛り花を作ることもありますよ」と笑顔を見せる。
庭の中には夫妻が名前を知らない植物もある。「うちには“お手伝いさん”がいて、時々種を運んでくるんですよ」と昭さん。その“お手伝いさん”は水鉢で水浴びしたり、実をついばみにきては、お礼にさえずっていくという。メジロやスズメといった小鳥たちだ。
多様な動植物を受け入れる様子は、まさに「自然の岩山」とも言えそうだ。
建物の周りは視界が開けているため、縁側からは遠くに見える山並みを借景として楽しむことができる
敷地入り口にあるサクラ。以前の実家が建っていた時からある
隙間の植栽でより自然に
石の汚れはあえて残す県外の会社を定年退職後、沖縄に帰ってきた。6年ほど前、実家の建て替えを機に庭も造ることになった。家を設計した建築士が庭のイメージ図面を描き、それを基に金勢造園の職人が現場で調整しながら造っていった。
職人は「大きな石を使うことで重量感を演出。石の隙間には低木などを植えられる小さな植栽マスも設け、自然の岩山に見えるようにした」と話す。
また、「手入れがラクになるように」と、芝生の代わりとしてイワダレソウやヒメキランソウを植栽。芝刈りなどの作業がいらず、踏まれても大丈夫だという。
石積みの手入れは昭さんが行う。その際、階段の踏み面の汚れは滑り防止のため高圧洗浄機で落とすが、それ以外の汚れはあえて残す。「そのままにしておくことでより自然な風合いになるから」と昭さんは説明する。石積みの継ぎ目から出る雑草も「無理に引き抜くと、石を固定するコンクリートがはがれて穴が開くかもしれないので、必ず除草剤で対処します」と、石積みを丁寧に扱っている。
植物は貞江さんが“庭友達”から譲り受けたものなどを挿し木で育て、それを地植えしたり鉢植えのまま配置する。貞江さんは「毎日15個ずつつぼみをつけるハイビスカスもある。手を掛ければ掛けた分、応えてくれるから楽しいんです」と話した。
石積み。大きな石がいくつも使われ重量感がある。中央にある、オウゴンヒイラギの葉が輝いて見える
門から続く階段。途中で駐車場からの階段と合流し、家まで延びる
石積みの隙間に設けられた植栽マス。細かい部分から植物が育つことで、より自然の姿に見える
玄関前の様子。春先には、ひんぷん前の植栽に赤や白のツツジが咲き、おめでたい雰囲気になる
建物の周りをハイビスカスが囲み、道路からの視線を遮る。たくさん並んだ鉢植えは貞江さんが育てているもの。庭に植えられる時を待っている
庭で摘んだハイビスカスの花だけを使って、貞江さんが作った盛り花(貞江さん提供)
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1952号・2023年6月2日紙面から掲載
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この記事のキュレーター
- スタッフ
- 出嶋佳祐
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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。