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2023年6月16日更新

透かす建築とバッファゾーン|風土と住まい①

[文・写真/金城傑(沖縄県建築士会会長・調査研究委員、K・でざいん代表)]
沖縄の気候風土に適した住まいとは? 今回から始まる連載は、沖縄県建築士会・調査研究委員会を中心としたメンバーが、さまざまな視点から「風土と住まい」について考えます。トップバッターの私は、“透かす建築とバッファゾーン(緩衝地帯)”という観点でスタートします。

コンクリート壁に穴をあけたほか、アルミルーバーを使ったり赤瓦を重ねるなど、透かす手法を組み合わせた住宅。通りからの視線は遮りつつ通風。夜は通りに明かりがこぼれる
コンクリート壁に穴をあけたほか、アルミルーバーを使ったり赤瓦を重ねるなど、透かす手法を組み合わせた住宅。通りからの視線は遮りつつ通風。夜は通りに明かりがこぼれる​

 

風活用でき省エネにも

最近、コートハウス(中庭形式)的建築が沖縄に増えており、すっきりとしたデザインで人気もありますが、周辺環境と一線を画しているきらいもあり、周辺とのつながりに懸念を感じてしまいます。

開くか閉じるか、だけの選択では、沖縄で紡いできたコミュニティーが失われる危惧もあります。そこで勧めたいのが、古くから沖縄の建築に活用されてきた花ブロックやそれに代わるさまざまなルーバー等のフィルターを1枚かけること。適度にプライバシーを守りつつ、風をうまく活用できる透かす建築的な手法は、自然エネルギーを活用した省エネ的な暮らしにつながる、沖縄の気候風土に適した手法ではないでしょうか。

沖縄の気候風土を形成する要素として、風、影、光、植栽、歴史、文化、コミュニティー等が考えられますが、そのうちの一つあるいは二つといった数少ない要素だけで快適性を求めることは沖縄の気候風土を生かしているとは思えず、幾つかの要素を組み合わせて、屋内と屋外、住まいと周辺環境を緩やかにつなげることが沖縄の環境に適していると思われます。

さらに言うと、建物単体だけで考えるのではなく、周囲の環境や地域のありようまで視野を広げて建築を考えた方が、沖縄の住まいには良いのではないでしょうか。

木ルーバーでフィルターをかけバッファゾーンを設けた例アマハジや玄関土間など室内外にバッファゾーンを設けた例
木ルーバーでフィルターをかけバッファゾーンを設けたり(上)、アマハジや玄関土間など室内外にバッファゾーンを設けた(下)例
 

通風・仕上げで防カビ

風を考えてみましょう。

年間を通して毎秒約5㍍で流れる風は全国平均より強く、この自然の恵みを活用しない手はありません。風を生かす工夫をすれば、エアコンに頼っているかなりの消費エネルギーを節約でき、さらに調湿作用のある仕上げ材(漆喰や無垢材等)を併用すれば、カビの発生を抑えることもできます。最近は、花ブロックに加え、アルミルーバーやその他の透かす手法を用いて適度なプライバシーと通風を確保しつつ、同時に日射遮へいの効用も得ています。
 
影をつくり涼風を呼び込む青部は南・東側の軒下空間(青)と、西日のふく射熱を遮る非居室空間(赤)
 

遮熱や交流の場にも

日射遮へいを行うのは、建材だけではありません。強烈な西日があたる西側にバッファゾーンとしての水回りを配置すれば、多くの時間を過ごすリビング等への遮熱を行いつつ、水回りのカビの原因となる湿気を早く除去することもできます。このように、プランニングの工夫も沖縄の気候風土を考える際には重要な要素です。

また、バッファゾーンとして近所の人々とユンタクもできる玄関土間などは、地域コミュニティーの醸成に寄与できます。屋外と屋内の間にポーチやバルコニーなどの土間スペース=青部=を設ければ、日常的に屋内外が機能的につながり、台風時にも強風をしのぐ空間として有効に機能します。

そのほか屋上・壁面緑化は、暑さを軽減しながら周辺に潤いをもたらし、地域景観に寄与すると思いますので、合わせて活用することを提案します。

引き続き、この後のメンバーによるさまざまな視点や提案も参考に、住まいづくりを考えていただければ幸いです。



きんじょう・すぐる/1955年、竹富町小浜島生まれ。東京電機大学建築学科卒業後、ふくたけ設計に勤務。沖縄県庁舎行政棟などを担当。92年、(有)K・でざいん設立。2020年、(公社)沖縄県建築士会会長就任。事務所ビル、クリニック、共同住宅、個人住宅などを手掛ける。㈲K・でざいん 電話=098・835・5518

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1954号・2023年6月16日紙面から掲載

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