家づくり
2023年7月21日更新
広がる蒸暑地域の湿害|風土と住まい②
[文・写真/下地洋平(県建築士会会員、クロトン設計・管理建築士)]
クロスの縦目とコンセントカバー周囲にカビが発生
2019年、私自身が設計監理した建物で夏型結露による大規模な湿害事故が発生しました=写真。当時は熱や湿気に関する知識に乏しく無為無策の状態でしたが、幾多の研究・技術書を読み、幸いにも湿度に詳しい実務者や研究者に相談することができました。これまで気にしていなかった、建材の湿気の通りやすさを示す「透湿抵抗比」や熱の伝えやすさを示す「熱貫流率」なども確かめ、ようやく改修方法を見いだすのに1年、改修工事に2年の月日を要しました。
改修には多額の費用が必要となり、建築士賠償責任保険の適用を受けることに。何よりも建築主や施工者、職人の方々、建築のために用いた建材に申し訳なく、必死で原因究明に取り組み、改修することができました。現在も再発はなく、本当に安堵しています。
こうした経験から、同じようなことで困っている方の力になりたい、夏型結露による湿害を減らしたいと思い、昨年から実態調査を行っています。
カビが生えているクロス下地の石膏ボード裏側。ここにもカビが生えている
構造や用途問わず
夏型結露とは外気が高温多湿な夏季に建物内の低温部で結露が発生すること。湿害とは結露した箇所に水染みやカビ・藻類が発生することによる変色・異臭が起きたり、床やドアが変形するなどの実害につながることです。夏型結露自体は葉っぱや車のボンネットや道路が朝露でぬれているような自然現象で、昔からあることではありますが、ここ数年は空気中の水蒸気量が増加しているためか=グラフ参照、これまで発生していなかった天井裏や床下空間、半地下駐車場などで発生し、湿害につながっているケースが聞かれます。また、私が行っている実態調査では、RC造・鉄骨造・木造にかかわらず、住宅、民泊施設、ホテル、営業所、高齢者施設など多くの建物で夏型結露による湿害が起きています。
近年は木造住宅が増えていますが、民間住宅の標準仕様書とも言うべきフラット35の技術仕様書にも、沖縄を含む省エネ区分8地域で結露を防ぐための明確な壁の造りや建材は示されておらず、その土地と住まい方に合わない壁体構成による夏型結露の発生が懸念されます。
那覇市の7~9月の各月平均気温と絶対湿度の推移。2018年ごろから空気中の水蒸気量(絶対湿度)が増加している。※絶対湿度とは乾燥空気(DA)の質量に対する水蒸気の質量の比。空気中に含まれる水蒸気量を表す(気象庁HP内の過去の気象データを基に著者が作成)
仕組み理解し改修
夏型結露による湿害はその原因が複合的であることが多く、発生の仕組みを理解した上でないと、単に仕上げ材の張り替え改修をしても再発を繰り返し、そのうちに責任のなすり付け合いとなり、争いに発展しかねません。調査を進めると多様な湿害の事例があり、似たような事例もあれば、他事例にないものもあります。その土地の風土や住まい方に合わせた設計や、土地や建物に合わせた住まい方をすることは大事な要素です。が、湿気に関する正しい知識や防露設計、住まい方などを教わる機会はほとんどなく、湿害が発生するかどうかは極めて不明瞭な状況にあります。そのため湿害問題に対して住まい手や現場の設計者、施工者に注意を促すだけで事故の発生を防ぐには、現状では不十分に思います。
蒸暑地域における湿気に対する技術開発や基準づくり、住まい方に合わせた設計手法の開発とそれらの共有化が必要ではないでしょうか。
しもじ・ようへい
1977年、浦添市生まれ。株式会社クロトン取締役。クロトン設計管理建築士。沖縄県建築士会会員。日本建築学会会員(蒸暑地域における建物の湿害実態調査WGメンバー)。2級建築士。
㈱クロトン 電話=098・877・9610
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1959号・2023年7月21日紙面から掲載