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2022年11月25日更新
[沖縄]空間との対話をアートに|津波博美さん(アーティスト) |家々人々[127]
12月3日(土)~18日(日)に那覇文化芸術劇場なはーとをはじめ、市内の店舗や公園などあちこちで開かれる企画展「Art NAHA~まちなかの展覧会」に参加する津波博美さん(52)。空間全体を作品とする「インスタレーション」を得意とする。家に関わるテーマの作品が多いのは、亡き父の未完成の家が「きっかけかもしれない」と話す。
空間との対話をアートに
津波博美さん(アーティスト)つは・ひろみ/1970年、南城市(旧佐敷町出身)。沖縄キリスト教短期大学保育科卒。96年渡英。2007年、ロンドン芸術大学キャンバウェル・カレッジ・オブ・アーツで修士取得。19年、帰国。母が営む保育園で園児にアート遊びと英語を指導。自身のアート活動も続けている。タレントの津波信一さんは弟。
■津波さんは普段、保育士をしているんですね。
母子家庭で長女ということもあり、保育園を営む母を手伝うために保育士の資格を取りました。
でも、中学生のころからずっと抱いていた海外への思いが捨てられず、26歳で渡英したんです。当初は2年で帰る予定が結局23年。イギリスを拠点に、ヨーロッパやアジアなどたくさんの国を旅しながら創作したり、大学院などでアートを学びました。
2019年に帰沖して保育園に戻り、現在は2歳~4歳の園児にアート遊びや英語を教えています。子どもたちが自由に表現を楽しめるようになったり、変化や成長を感じるのがすごくうれしいです。
「子ども時代の住まい」をテーマにしたスケッチ
「子どものころは引っ越しが多かった」と語る津波さん。それらの家をアートで表現しようとスケッチに起こした。幼稚園児のころの「豚小屋があったおじいちゃんの家」などが描かれている。
■世界各地を旅して、アートにも影響がありましたか?
私がよく用いるインスタレーションという技法は、ある特定の場所にオブジェや装置を置き、空間全体を作品とする現代美術の表現法の一つ。さまざまな国や人の家に泊まらせてもらって、その空間や記憶を別の場所で表現するなどしてきました。
家、場所、建築資材などに興味があり、アートで表現したいと思うのは、大工だった父の影響が大きいのでは、と感じることがあります。
両親の離婚後、私は母と暮らしてきました。ロンドン滞在中に父が亡くなり帰省したとき、父と弟が住んでいた家の隣に、造りかけの家があったんです。家族のために建てようとした、その未完成の家を見ながら父は亡くなったんだなと思いました。建てられなかった大工の思い、むき出しのコンクリートや建築資材を見て、その場所で表現したいと展示会も行いました。
■来月には「那覇のまち」をテーマにした展覧会に参加するのですよね。会場も店舗や公園など、市内さまざまな場所なのだとか。
はい。だから最近は那覇に入り浸っています(笑)。その過程も、表現することも楽しみにしています。
また、香港からもアーティストが来るので、滞在しながらどう制作するのかにも興味があります。場所と作品の関係性を感じるのはとても面白い。なぜこの作品がこの場所に来たのかなど、アートを通した「空間との対話」を多くの人に楽しんでほしいです。
◇ ◇ ◇
ホッと空間
自然の中のアトリエ
畑に囲まれたアトリエは、「創作に没頭できるお気に入りの場所」と津波さん。友人とシェアしており、建物は昔、津波さんの祖父と父が建てたもの。「屋根のないスペースで自然を感じながら取り組むのが好き」とにっこり。
プライベートはこんな顔
来年3月に公民館で園児たちの卒園展をしようと計画中です。写真はことしの夏に、イギリス在住で県出身陶芸家の山内盛彰さんに土遊びを教えてもらったときの作品で、披露するのが楽しみです。
取材/赤嶺初美(ライター)
毎週金曜日発行 週刊タイムス住宅新聞
第1925号・2022年11月25日紙面から掲載