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2023年9月22日更新

不動産の日特集2023①|RC造の劣化 食い止めるには?

鉄筋コンクリート住宅が劣化する主な原因は、内部の鉄筋がさびることで起こるコンクリートのひび割れや剥落だ。劣化を食い止め、今ある家に長く住み続けるためにできることは何だろう? 1977年に南城市の奥武島に建てられた住宅の劣化分析から、そのヒントを探る。※9月23日は全国宅地建物取引業協会連合会が制定した不動産の日。今号は不動産活用・取引をテーマに特集を展開します。

(写真・グラフ類はすべてアトリエネロ提供)

奥武島のRC住宅の東側2階テラス。梁下部のコンクリートが落ちて主筋が露出。鉄筋が切れているところもある
奥武島のRC住宅の東側2階テラス。梁下部のコンクリートが落ちて主筋が露出。鉄筋が切れているところもある
 
奥武島のRC住宅の南側の柱。コンクリートが剥落している
奥武島のRC住宅の南側の柱。コンクリートが剥落している


1977年完成の奥武島のRC住宅
塩分量と含水率
方位ごとに調査し劣化分析


沿岸部の家 海側は飛来塩分14倍



調査が行われたのは、南城市奥武島の海沿いにたつ、除塩不十分な海砂を使った鉄筋コンクリート(RC造)住宅だ=上写真。築45年。コンクリートにはひびが入り、海に面した南東側の2階テラスは梁下部のコンクリートが落ちて鉄筋が見え、柱も欠けていた。

調査を行ったのは長年RC造の保存活用に取り組み、東京理科大学で関連研究を手掛けるアトリエネロの根路銘安史さん。同住宅について「台風のたびに頭上で音がして、1階にいる家族にもコンクリートの塊が落ちたと分かるほど。危険な状態で、取り壊しが決まっていた」と話す。そこで建築材料学の専門家である同大の今本啓一教授らの協力の下、一昨年から1年かけて調査。既存RC造や新築の劣化対策に生かすことにした。
 
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グラフ1 塩化物イオン量の分布
塩化物イオン量は北側4.2㎏/㎥、南側平均7.5㎏/㎥。「南が約3㎏/㎥高いのは飛来塩分によるもの。北側がその影響を受けていないと仮定すると、コンクリート中に含まれる内在塩分量は内陸部にたつ今帰仁村中央公民館と同程度」と根路銘さん


グラフ2 含水率の分布
海に面する南面・東面の含水率が突出しているのが分かる。根路銘さんは「海風の影響を受けたものと考えられる。東面の表層で含水率が低いのは、5年前に南東に3階建ての建物ができ、海風を遮っているため」と分析する


グラフ3 飛来塩分量と部材劣化度
劣化度に基づき、柱および梁部材の劣化状況を目視調査した結果。南側と東側の劣化が大きい一方、北側、西側は比較的軽微。「飛来塩分量と部材劣化度は相関関係があると分かる」と根路銘さん
 
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数値化により対策が明確に

まず、東西南北それぞれの柱からコンクリートを抜き取り、壁にも測定板やセンサーを取り付け=方位別調査位置、コンクリート中や表面の塩分量と含まれる水の割合を調査。劣化との関係を分析した。その結果、劣化が最も激しかった南側は、北側に比べコンクリート中の塩分量が1・7倍=グラフ1、飛来塩分量は他方位の14倍に上ることが判明。含水率も南と東が突出していた=同2。また、南に次いで劣化は激しいものの東側の飛来塩分が少ない=同3=のは、「5年前に隣家がたったため」と分かった。

これらのことから「飛来塩分と部材の劣化度には相関関係があるだけでなく、①波打ち際に近い沿岸部は同じ建物でも方位によって飛来塩分量の差が大きいこと、②海側からの風が水分と塩分をもたらしコンクリート中の含水率や塩分量を増やすこと、③海風の影響は周辺環境で大きく変わること、が分かった」と根路銘さん。「数値化により、RC造の劣化対策の仕方や考え方が明確になったのは大きな成果。防風林の有用性の裏付けにもなった」と話す。


海風からの蓄積 危険な状態に

では、私たちが現在住んでいるRC住宅は、どう対策すればいいのだろう? 根路銘さんは「海沿いにたつ場合、海風に含まれる水と塩分が蓄積するだけでも危険な状態になり得るため、それらをコンクリートに浸透させない対策が必要」と呼びかける。

具体的には建物表面に膜を作る防水塗装を施したり、直接雨や海風があたらないよう別の材料で覆ったり、新築ならコンクリート密度を上げて水や塩分を染み込みにくくしたり、屋根勾配を大きく取るのも有効とのこと。「コンクリートに染み込まなければどんな方法でもいい。一般的に屋上からの浸透が多いので、屋上と海風が当たる面を優先して」とアドバイスした。

 

断つべきは水 要因踏まえ対策を



RC造の劣化対策を考える上でもう一つ、外せないのが住宅の完成年。本土復帰を機にコンクリートの需要が増した沖縄では、1985年以前に完成したRC造のほとんどが、除塩不十分な海砂を使って建てられている(以下、内在型)からだ。根路銘さんは「『RC造は補修しても再劣化を繰り返す』と言われ、旧那覇市民会館の取り壊しが決まったのもそのため。だが内在型でも、塩分が含まれていることを踏まえた補修・対策を施せば、劣化を食い止められる可能性があることが分かってきた」と力を込める。

そもそもRC造の鉄筋がさびる条件は、水・塩分・酸素。「ならばその一つを除けば、さびを防いだり進行が食い止められるということ。既に塩分が含まれる内在型なら水」。ちなみにこれまで行われてきた一般的な補修は、鉄筋にさび止めを塗り、新たにモルタルを上塗りする方法。だが、「これだと古いコンクリートに含まれる塩分と、新しいモルタル内の水が反応し、鉄筋がさびてしまう」と指摘する。


再劣化を抑制 表面含浸材

そこで注目したのが表面含浸材だ。「これはコンクリートに浸透して水を侵入しにくくするもの。鉄筋にさび止めを塗った後、周辺の古いコンクリートに含浸材を染み込ませてからモルタルを塗れば、水が古いコンクリートや鉄筋に届かずに済む=上図」と根路銘さん。土木現場では普及しているが、建物に使われ始めたのは最近で、「オペラハウスや西洋美術館などの補修に使われている。昨年、県建築士会が行った今帰仁村中央公民館=下写真=の補修に使ったのもこれ」と話す。こうした建物に採用されているシラン系含浸材「プロテクトシル」を販売するポゾリスソリューションズ㈱の太田純一朗さんは、「費用は施工業者にもよるが、工事費込みで一般のフッ素系外壁塗料の1・5~2倍程度。打ち放しの質感を生かせ、紫外線にも強いことから、多良間空港や宮古島の新築住宅にも採用されている」と話す。

内陸部にある未除塩海砂使用の建物の一つ、今帰仁村中央公民館。1975年竣工。県建築士会などの協力を得て補修中内陸部にある未除塩海砂使用の建物の一つ、今帰仁村中央公民館。1975年竣工。県建築士会などの協力を得て補修中


◆含浸材を使った補修法
「プロテクトシルは7~8㌢含浸して絶縁層を形成。鉄筋周りにも保護層を作る。仕上げに建物全体に塗布すれば、水の侵入を防ぎ建物の保護効果がさらに高まる」と太田さん


内在型も住み続けられる

奥武島の住宅は建て替えざるを得なかったが、「同じ内在型でも、状態によっては水を断つことで住み続けられる可能性は出てくる。内陸部にあるなら少なくとも屋上、沿岸部なら海風の当たる面も補修を」と根路銘さん。完成年や立地で優先点は違うが、「どの住宅も『断つべきは水』。要因を踏まえた適切な対策を」と呼び掛けた。



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取材/徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1968号・2023年9月22日紙面から掲載

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徳正美

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