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2017年10月20日更新

世界一軽い建具 隙間の美学①「障子編」|細部から文化が見える

文・写真/後藤道雄(建築家)
この連載では、建築家で「伝統建築『これから』研究会」の代表、後藤道雄さんが、木造建築の細部に隠れた先人たちの知恵や粋、技術の妙を解き明かしていきます。第1回は、わずか3ミリの隙間を行き来する「障子」です。

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来日する外国人が不思議に思うのが渋谷のスクランブル交差点。青信号で最大約3千人が行き来しますが、だれひとりぶつからないしケンカも起こらないからです。
わずかな隙間でぶつからないのは和室の障子やふすまも同じです。世界で一番軽い建具である障子は開閉時、わずか3ミリの隙間を行き来します。電車がすれ違うように…。
これは先人たちが究めてきた知恵です。元来、障子は外部との仕切りでした。昔は障子の外に木製の雨戸があり、風雨をしのいでいました。現在はアルミサッシの発達で、アルミ製の雨戸の内側にアルミサッシ、その内側に障子を立てるようになりました。


自在な開閉面積

西洋式の開き戸の開閉幅はゼロか100%ですが、日本式の引き違い戸や片引き戸は開口幅が自在です。
また、上下に分けたすり上げ障子=写真①=や左右に分ける猫間障子=写真④、腰板にスライドさせる無双窓などを入れると、さらに開閉面積は自在になります。
日本では障子の一部に入れるガラスは「紙」が変化したもの、西洋では「壁」が透明になったものなので発想が全く違います。
明かり障子(外の明かりを取るために片面だけ紙を張った障子。今はこの障子が一般的)は紙一枚で風の流れや視線を自由に遮ることができ、かつ、紙が汚れたりやけたりしたら張り替えて新品に再生することもできます。破れやすいですが、張り替えもしやすい。か弱い紙を傷めない優しい思いやりも生まれます。
開き戸は開閉に場所を要しますが、障子は不要です。


溝加工の妙技

障子の移動に必要なのが、柱と柱の間の鴨居(かもい)と敷居の溝加工です。障子は軽いので面倒な戸車調整もなく、動かなくなったら削れば済みます。
一般的な障子の「見込み」(厚みのこと、正面から見える側は「見付け」)は1寸(30ミリ)です。障子の上下を削って溝に入れ、溝を滑らせて開閉します。その時に室内側にできる形を「肩」といいます。その溝の寸法を調整して隙間をあえて作ります。その隙間は3ミリ。木や紙は水分を吸収・分散するので変形します。変形しても隣の障子とぶつからないようにするため隙間があるのです。広過ぎても狭過ぎてもいけません。
昔の障子の溝は6分(18ミリ)、ひばたは(溝と溝の間の出っ張った部分)5分(15ミリ)が多かったのですが、最近は7分(21ミリ)と4分(12ミリ)が増えました。これは襖への変更が容易だからでしょう。ちなみに襖の溝は「3・7(さんしち)」と呼ばれます。
ここで重要なのは5・6でも4・7でも合計すれば33ミリになる点です。建具の見込みが30ミリなので残り3ミリが隙間になります。


聞こえても聞こえない

日本の障子には戸車がありません。それほど建具自身が軽いということです。
季節によって取り換え自由で小指でも動く障子。わずか1分(3ミリ)の間で織りなす光や風の調整は、四季の変化に対応する日本に一番似合うツールです。そして厚壁で遮らなくても、わずか0.1ミリの障子紙一枚で音や声が物理的には聞こえていても聞こえないとするのは、障子の向こう側の人に配慮する日本人の感性そのものと言えます。


写真①は「ガラリ付きすり上げ障子」。すり上げ部分の裏にガラリが付いているので、すり上げ部内を上下すれば明かり・風の調整が自在。内から外は見えても外から内は見えない。腰板は左右に動かして通風を調整できる無双窓付き(北中城村)

上写真②

上写真③
障子の框(周囲の枠)に、さらに縁が付いている=写真②の円部分。写真③は裏側の拡大=「つば付き(付け子)明かり障子」。框に紙張りしないので、裏(縁側)から見るとスッキリした上級仕上げ(沖縄市)

鴨居の溝加工の例。手前(向かって右)から夏障子用(1本)、障子(2本)、ガラス窓(2本)、網戸(1本)、ガラス雨戸(1本)。わずかな隙から季節の香りを乗せた風が入る(那覇市首里)

写真④=一部が左右に開閉できる「猫間障子」(糸満市)

 

明かり障子(つば付き)の断面




[文・写真]
後藤道雄(建築家)
ごとう・みちお/北中城村在住。伝統建築「これから」研究会代表、おきなわ環境塾塾長、一級建築士、技術士(建設部門・総合技術監理部門)、IPEA国際エンジニア、環境カウンセラー、インテリアプランナー。受賞歴は日本建築士連合会賞奨励賞(2度)、木材活用コンクール優秀賞、住宅建築大賞ほか。著者には「龍の道ものがたり」「きたなか林間学校」などがある。


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1659号・2017年10月20日紙面から掲載

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