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2023年7月14日更新
木造建築に込められた沖縄の知恵と技を継承|コミュニティアパートができるまで④
文・写真/守谷 光弘(「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー)
木造建築に込められた沖縄の知恵と技を継承
中村家のように伝え遺したい
前回まではコミュニティ・アパート「山城のあまはじや」の概要と私の思いをお話ししたので、今回からは建物の詳細についてご紹介します。
設計と施工は“3世代先の100年後まで住み継がれる沖縄型長寿命木造住宅”を提案している株式会社 琉球住樂にお願いしました。この会社を選んだ理由は、琉球の伝統的な建築様式を遺(のこ)しながら、沖縄ならではの風土に適した最新の建材や工法を用いて、住人の健康と快適性、安全性を守りつつ、地球環境にも配慮する高性能省エネ住宅を、在来軸組工法で実現しているからです。木造の家を建てると言うと、沖縄では「白アリに食われるよ」とか「台風で壊れるぞ」と、かなりの高い確率で年配者から注意を受けるのですが、そのような方には「私は北中城村にある中村家住宅に憧れていて、私の家も300年後にまで伝え遺したい考えなので、木造にしました」と説明しています。
現在の沖縄ではコンクリート造を良いとする傾向にありますが、現存する世界最古のコンクリート建造物と言われているのが1904年にパリに建築されたサン・ジャン教会で、日本最古の鉄筋コンクリート住宅が1916年に軍艦島に建築された集合住宅と、いずれもわずか100年の実績しかないわけです。
その一方で木造だと、沖縄には1614年に石垣島に建てられた桃林寺権現堂があり、中村家住宅は約280年前に建てられたとされていて、既に400年や300年近く沖縄の強い紫外線や高い湿度、台風や地震、白アリに耐えた建築物があるわけですから、私はこの先人たちの知恵や技術を信頼して継承したいのです。日本の木造建築技術は海外でとても評価が高く、その大工の技術には羨(せん)望(ぼう)のまなざしが向けられていますので、日本人は安易に外来の技術に傾倒するのではなく、自国の風土や歴史に裏打ちされた技への理解を深めた方が良いと思うのです。
設計・施工を依頼した琉球住樂にある木工所で作業する守谷さん(手前)。環境先進国であるドイツの自然健康塗料「リボスオイル」(主原料は亜麻仁油)を長さ4mの野地板600枚に塗り込んでいる
高気密・高断熱な木造
結露・カビ防いで快適
木造の弱点だった気密性は、高気密の樹脂サッシと外張りの断熱材によって保たれ、この樹脂サッシと遮熱複層ガラスの窓が従来のアルミサッシ窓に比べて熱伝導率を格段に下げました。また、元々コンクリートや金属に比べて断熱性の高い木の構造体を、両面アルミ被膜の硬質ウレタンボードで包み込む外張断熱工法は、高い湿度と夏の暑さ、冬の寒さを室内に取り込みません。エアコンが1台あれば結露やカビを防いで、きれいで快適な空気を保ってくれます。
木材はサバニの材料としても珍重されてきた宮崎県日南市の飫肥(おび)杉を構造、床、天井、造作に使い、雨端(あまはじ)を支える柱だけは製材されていないチャーギ(イヌマキ)が使われています。木材に使った塗料は亜麻仁油を主原料とするドイツ製の自然健康塗料で、外壁は西日本で見られる焼杉(杉板の表面を数ミリ焼いて炭化させたもの)により防腐と防炎、防虫効果を高めています。室内の壁には無添加の漆喰(しっくい)を使い、床や柱、梁(はり)は無垢(むく)材のままですから、それら自然素材ならではの調湿機能が最大限に生かされていることも、室内の快適性をさらに良くしていると思います。来訪者の多くが「匂いが良い」とか「空気が良い」と褒めてくれるゆえんに違いありません。
外壁材になる焼杉も守谷さん自らが製作。700枚もの杉板の両面を、プロパンガスの強力なガスバーナーで焼き付ける
もりたに・みつひろ
1966年東京都世田谷区出身。2007年より沖縄県在住。「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー 兼 管理人 兼 住人。糸満 海人工房・資料館を運営するNPO法人ハマスーキ理事。2020年、小規模土地分譲『等々力街区計画』の街区デザインでグッドデザイン賞受賞
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1958号・2023年7月14日紙面から掲載