沖縄建築賞
2022年10月21日更新
【第8回沖縄建築賞】一般建築部門 正賞/「那覇文化芸術劇場なはーと」(那覇市)/根路銘剛次氏(46)/根路銘設計/長谷川祥久氏(60)/香山建築研究所/兒玉謙一郎氏(54)/久米設計
沖縄県内の優秀な建築物・建築士を表彰する「沖縄建築賞」。全34作品(住宅部門14件、一般部門20件)の中から、第8回の入賞作品が決定した。住宅部門正賞・新人賞には大城禎人氏設計の「400(ヨンヒャク)」が、一般建築部門正賞には、根路銘剛次氏・長谷川祥久(さちお)氏・兒玉謙一郎氏設計の「那覇文化芸術劇場なはーと」が選ばれた。
那覇市に昨年、誕生した舞台芸術の新たなランドマーク。大小の劇場やスタジオなどを備える
一般建築部門正賞
「那覇文化芸術劇場なはーと」(那覇市)
意匠・機能 出色の劇場
JVの強み生きた事例
舞台や芸術の発信拠点である「那覇文化芸術劇場なはーと」を手掛けたのは、根路銘設計(那覇市)と、香山建築研究所(東京都)、久米設計(同)によるJV(共同企業体)。
古谷誠章審査委員長は「地元をよく知る県内の建築事務所と、大型施設や劇場を得意とする県外の事務所が有効に共働した好事例。出色の完成度だ」と評価した。
織物のような外観は、薄肉コンクリート「HPC®(ハイブリッド・プレストレスト・コンクリート)」で「首里織(花倉織)」を再現。文化・芸術の発信拠点を印象づけるとともに、強烈な日射や台風から建物を守る。省エネや耐久性向上にも役立つ、サステナブルなデザインだ。
同施設の1階は4方向すべてに開く。玄関を持たない沖縄特有の造りを踏襲したカタチだ。先の「首里織皮膜」の下に生み出された軒下空間「アマハジ」が人々を施設内へ誘導するとともに、憩いの場にもなる。
施設内は3層吹き抜けで、劇場や練習場などが出っ張るように顔を出す。人々の視線、にぎわいが立体的にも交錯し活気にあふれる。
「デザイン性や人の流れなど、これほどまで地域性を追求したホールはない」と評され、正賞に選ばれた。
1階の共有ロビー、通称「ウナー」から劇場や練習場を見上げる。吹き抜けから視線やにぎわいが交錯。立体的な造りで、活気を生み出す
印象的な外観は、薄肉コンクリート(HPC)の「首里織皮膜」。HPCの横材パーツ=下写真=に縦材を織るように交錯させてつくり上げた
サンゴ礁や美しい海をイメージしたという大劇場。約1600席を有する
小劇場は琉球王朝時代の高貴な色である黄色がベース
1階の小スタジオ。最大約6.6メートルの大開口を開けると、外と一体的に使える
設計者/根路銘剛次氏(46) ㈱根路銘設計
長谷川祥久(さちお)氏(60) ㈲香山建築研究所
兒玉謙一郎氏(54) ㈱久米設計
(根路銘)復帰50周年という節目の年かつ、県外からも応募可能となった中で、素晴らしい賞を受賞できて大変うれしく思っております。素晴らしい方々と一緒に設計できたことは、とても貴重な経験でした。また、那覇市はじめ施工者さまにも多大な協力をいただいた結果だとも思います。この建物が末永く愛されることを願っています。
審査講評・小倉暢之氏(琉球大学名誉教授)
人引き込む魅力的な劇場
劇場は建物単独で成立するのではなく、周辺施設との連携において成り立つものである。周囲を商業ビル群に囲まれた那覇市街地に新たに計画する上では、さらなるにぎわいを生み出す質の高い建築が求められる。なはーとは、敷地周辺や施設内を平面的、そして立体的に回遊できる人の流れを創出し、多様な視線の交錯を生みだしている。さらに、内部の共有ロビーにある大きな吹き抜けを介してつながる大小のホール「ホワイエ」や、大きな開口部を有する大小のスタジオが立体的に目視できるのは、この劇場の見どころの一つであり、その魅力が外の流れを内に引き込む大きな力となっている。
また、外観のボリュームを和らげるため用いられたHPC®のパーツで構成される日照調整パネルも注目される。沖縄伝統織物の織り方を参考にデザインされており、内部と外部の視線を適度に透過させ、昼夜の表情に変化をもたらし、親しみやすさを高めている。
総じて質の高い設計内容であり、正賞にふさわしい。
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第1920号・2022年10月21日紙面から掲載