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2022年8月19日更新

スリランカの建築家ジェフリーバワ|ウチナー建築家が見たアジアの暮らし⑤

文・写真/本竹功治

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建築を自然と生きる資源に

灼熱(しゃくねつ)の熱帯夜、僕たちはレストランの半屋外テラス席を陣取っていた。高い壁に囲まれ落ちついた空間、ちりばめられたアンティーク、センスの良い家具にカトラリー。かっこいい。

ここは南インド洋に浮かぶ島、スリランカ。僕たちはこの島出身の建築家ジェフリーバワの建築を巡る旅に来ていた。バワといえばハイエンドリゾートの先駆者、自然と建築の融合など熱帯地方特有の文化とモダンさを組み合わせた僕たちの憧れだ。

そして、今まさに彼が設計した空間に来ている! テラスから空にはみ出すように育った木のそばから満月が顔を出すと、僕たちのテンションはMAXに上がった。「よーし飲むぞ~、ワインだ! スパークリングの白にしようか」などと散々迷ったあげく、結局は3人そろって「とりあえずビール!」。

すると店員があきれた顔で「×(バツ)」をしている。またかという感じで。そう、今夜は満月、この日スリランカは月に一度のフルムーンポヤデーと呼ばれる全国民が禁酒の日だったのだ(泣)。


秘境のリゾート地へ

酒がぬけ体調万全の僕たちは、次のバワ建築へ向け9時間ほどバスに乗り、いくつもの山をこえさらにトゥクトゥクへと乗り換え、スリランカ北部の奥地へ入っていった。すると突然、巨石にドーンとかかった大屋根が現れる。おおお、これがヘリタンスカンダラマ! バワ設計のリゾートホテルだ。

緑に覆われた外観はヤンバルの森のように深く全体像がつかめない。自然の岩間に配置しただけのような半屋外レセプションをくぐると、ビューっと風が抜け、視界いっぱいに広がる湖岸へと僕たちを運んでくれる。大自然に放り出されたと思ったら、次は客室へとつながる長い回廊が続く。壁はなく、岩肌むきだしの廊下、森の奥へと踏み入るように人の気配から遠ざかっていく。僕たちの耳も目も鼻も、その感覚は野性へと戻されるように敏感になっていった。
 
ジャングルに覆われたカンダラマホテルの外観。次に訪れる時には、森の中へと姿を隠しているだろう


自然の岩をそのまま削りとったホテルのプール。野鳥や野生の猿もたびたび行水にやってくる

生きものとつながる建築

建築とは人が造るものだ。しかしバワの建築は自然の手で昔からそこに自生していたかのように森の中にたたずみ、まるで最後には朽ち果てて土へと返っていくことを願っているようだった。かやぶきだった頃の沖縄の民家が自然の恵みに生かされ、朽ちては再生を繰り返す持続可能な生きものの一つだったように、それは現代が抱える環境問題への一つの問いなのかもしれない。

「建築を生きる資源として考え直すことはできないのだろうか?」と。

ようやく酒も解禁になり身も心も酔っぱらった僕の脳内にバワの声がこだましていた。



執筆者
もとたけ・こうじ/父は与那国、母は座間味。沖縄出身の、アジア各地を旅する建築家。2014年よりカンボジアを拠点に活動している。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1911号・2022年8月19
日紙面から掲載

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