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2022年9月16日更新

ミャンマー・チン州/雲の上に住むハンター|ウチナー建築家が見たアジアの暮らし⑥

文・写真/本竹功治
沖縄の栄町に異国感漂う店がある。オレンジ色に包まれた店内から「いらっしゃい~」と独特のイントネーションで迎えてくれるのは、「ロイヤルミャンマー」店主のソウさんとカイさん。いつものようにお茶っ葉サラダとミャンマービールを注文すると、ソウさんは「もうミャンマービアは来ないね…」と寂しそうな顔をした。そう、ミャンマーは現在、軍事クーデターにより国内では混乱が続いている。

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ビールに思う命の尊さ

沖縄の栄町に異国感漂う店がある。オレンジ色に包まれた店内から「いらっしゃい~」と独特のイントネーションで迎えてくれるのは、「ロイヤルミャンマー」店主のソウさんとカイさん。いつものようにお茶っ葉サラダとミャンマービールを注文すると、ソウさんは「もうミャンマービアは来ないね…」と寂しそうな顔をした。そう、ミャンマーは現在、軍事クーデターにより国内では混乱が続いている。

ミャンマーを訪れたのは2018年の年末、出会った人々は元気に過ごしているだろうか? オリオンビールを片手に、僕はミャンマーの平和を祈り、旅のことを思い出していた。


雲の上で目覚める

早朝なにやら音がする、朝食の支度かな? と宿のドアを開ける。んんん? まだ寝ぼけてるのか…。目をこすってもう一度見る。えええ~、雲の上? 一面に広がる雲海が、まだずっと下で出番をまつ朝日を包みこんでいた。

昨夜はヤンゴンから車で北西へ11時間、ガタゴト道を休むことなく走り続け、運転するウメさんの口の中が眠気覚ましにかみ過ぎていたビンロウ(噛(か)みタバコ)で真っ赤に染まる頃、ようやく宿にたどり着いた。

ここはミャンマー北西に位置するチン州の山頂、浮遊感をさらに強調するかのように高く上がった床の家が立ち並ぶ。僕たちはこの山に珍しい鳥が生息すると聞きつけ、現地ガイドを紹介してもらい森へと入っていった。
 
標高3千メートルのエリザベス山の頂上付近
標高3千メートルのエリザベス山の頂上付近。すぐそこには隣接するバングラデシュとインドがある

自然と戯れながら生きる

ガイドのパドゥが「ヨォッ」っと叫ぶと、「ホォッ」っと遠くから返事が返ってくる。彼らは現役ハンター、縄張りがあり山の中では互いの名前を呼ばないルールだ。どれくらい歩いただろうか? いや、歩く道などなかった。必死に岩にしがみつき、竹のロープを握りしめ、滑り落ち、さらに谷底へと下ってきた。

途中、パドゥが僕たちを呼び止める。手製のわなに野ネズミが2匹かかっていた。大きな葉をナイフで1枚刈り獲物を包むと、「ランチに食べよう」とかばんにしまう。全く食欲そそらないんですけど(笑)。さらにパドゥは木に登り果物を採ったり、ジョロウグモを見つけては焼いて食べたりして自然と戯れていた。アリの巣をいとおしそうに、おいしそうに眺める彼の目が忘れられない。

捕獲した野ネズミ
捕獲した野ネズミ。獲物がわなにかかると、上につるした太い木が落ちてくるという仕掛けによって捕らえた

この旅からたった3年、ミャンマーの情勢はガラッと変わってしまった。チン州では内戦が続き、民間人が巻き込まれている。パドゥのように自然の中で生きることと死ぬことを学んだとしても争いは起こるだろうか? 命を大切にするとはなんだろうか? いま一度学びなおす時にきてるのかもしれない。彼らに一刻でも早く平穏が戻り、またミャンマービアが沖縄でも楽しめることを切に願う。


本竹功治
執筆者
もとたけ・こうじ/父は与那国、母は座間味。沖縄出身の、アジア各地を旅する建築家。2014年よりカンボジアを拠点に活動している。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1915号・2022年9月16
日紙面から掲載

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