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2022年7月15日更新

番外編/カンボジア 設計失敗談|ウチナー建築家が見たアジアの暮らし④

文・写真/本竹功治

なければ作る ものづくりの原点

ここはカンボジア中部にある、焼き物で有名な村。僕は製作依頼をしていた洗面器を確認に来ていた。進行中の現場で使う予定のものだ。

「チャンくん、パニハーだ!(カンボジア語で問題があるという意味)」「コージ、オッパニハーだよ(問題ない)」「いや、これだと水が流れない」と僕が言うと、「ほんとうだ!!」とチャン君は気づいて笑っている。

洗面器の水勾配がとれておらず、水がたまっているのだ。排水に穴すら開いてない器具もある! そう、僕の設計が甘かった…というより洗面器の設計なんてしたことなんかない(笑)。 そんなことも言ってられず、僕は某メーカーの仕様書を参考に原寸図を描いた。排水金物との接合部分の型を作り、イチから作り直してもらうことになった。


知恵と工夫で仕事を楽しむ

カンボジアでは建築資材がそろわないことが多い。日本でカタログを開き簡単に買えるものがここではそうはいかず、器具やそれを作る道具から作らないといけないことがある。言い方を変えれば、すべてがフルオーダー可能なのだ。

照明器具などの住設機器から、つり戸レールや取っ手といった金物類、タイル、花ブロック、カーテンやブランケットにいたるまで、材料を集めてきては職人と製作。いわゆる仕様書なるものもイチから作る。設計の仕事はまずそこから始まる。

それは現場の職人も同じで、必要な道具がない場合はささっとその場で作ることが多い。例えば、ホースの中の水が端と端で水平になる性質を利用して高さを確認する、落ちている石を拾って糸に下げ垂直をだす、余った塩ビ板で左官コテを作る、鉄筋の切れ端を溶接しハンマーにするなど。枝を組み合わせて脚立にしたり、開封した段ボールで日よけ帽を作っていたこともある。

物がないことによって、DIYの能力が異常に高く、施工方法のアドリブにもたけている。彼らはいつでも方法を考え、道具を自作し、ほんとうに楽しそうに仕事をするのだ。

ふと、昔は沖縄もそうだったのだろうかと考える。丸太で小屋を組み、竹を編んで壁を作り、かやで屋根をふいていた頃、人々はどんな道具を使い、どんな方法を用い、どんな顔で仕事をしていたのだろう。物があふれ豊かになった時代だからこそ、イチからものを作る楽しみについて考え直すことも必要だと感じる。
気温は40度、暑さに耐えかねた一人がダンボールを丸く切り取り頭にかぶった。すると、続いて皆がかぶり出し流行となった


◇         ◇

さて、製作中の洗面器を窯にいれること数週間、待ちに待ったカタチに仕上がった!! とはいかなかった。窯の中で収縮する分の数ミリの誤差が出て、排水金具が入らなかったのだ。たかが洗面器、されど洗面器。まだまだ考えることがたくさんありそうだ。こうして僕のカンボジアでの設計失敗談は続いていく。
ようやく出来上がった洗面器。一緒に山へ行き、釉薬(ゆうやく)の顔料や土を採掘するところから始めた


執筆者
もとたけ・こうじ/父は与那国、母は座間味。沖縄出身の、アジア各地を旅する建築家。2014年よりカンボジアを拠点に活動している。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1906号・2022年7月15
日紙面から掲載

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