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2021年11月26日更新
【沖縄】△に切り取る祈りの景色|気になるコト調べます![72]
沖縄県が毎年開催する設計競技「ティーダフラッグス」の2021年度募集が始まった。
設計競技金賞作品が完成 波音を鎮魂歌に
△に切り取る祈りの景色
沖縄県が毎年開催する設計競技「ティーダフラッグス」の2021年度募集が始まった。40歳以下の建築士が特定の敷地・建物用途で設計アイデアを競い、金賞を獲得した作品が実際に建てられる。18年度金賞に選ばれた國定義弘さん(スタジオジャグ)の作品「折れ壁の展望礼拝堂」は今年6月、糸満市喜屋武岬に完成。合掌の形を模した三角形で沖縄戦終焉の地となった風景を切り取り、平和への祈りをささげる場となっている。2018年度提案パース
海に向かって祈りをいざなう
沖縄本島南端の喜屋武岬には、戦後、喜屋武の住民らが集落や海岸に散在する遺骨1万柱を収集し建設した平和の塔が立つ。琉球石灰岩の荒々しい海岸線は名勝でもあるが、沖縄戦終焉の地という物悲しさも漂う。そこに建つ「折れ壁の展望礼拝堂」は、「平和の尊さに向き合う礼拝堂と美しい景色を望む展望台を兼ねた休憩所をコンセプトにした」と設計した國定義弘さんは話す。
逆三角の壁を3枚組み合わせた折り紙のような造形。スロープを上って内部へ入ると、三角に切り取られた海の景色が見える。ほの暗い内側から海を見ていると気持ちが沈んでくるが、足を進めて広場へ下りると青く輝く海がパッと広がり気分も明るくなる。明暗や広狭のメリハリは気持ちを切り替えるスイッチであり、戦争と平和という相対するものを考えるきっかけになっているように感じる。
「三角形は祈りの形“合掌”を模している」と國定さん。両手の指先を合わせるように壁を傾けることで風景を三角に切り取り、訪れた人の視線を誘導する。「戦争で追い詰められた人たちが海へ身を投げ、喜屋武岬近くの荒崎海岸に流れ着いたと聞く。鎮魂や平和を祈る方向はそこだと感じた」という國定さんは、海へ向かって高く広くなるよう壁を配置して祈りの方向を示した。
緻密に計画されたスタイリッシュさ
祈りや視線の誘導といった仕掛けもさることながら、スタイリッシュな見た目も魅力的だ。屋根は3枚の壁だけで支えている。國定さんは「全体的に上にすぼむような形にして屋根の面積を小さくすることで、重量を抑えている」と話す。壁の厚さは約15㌢と薄めで、紙のような軽やかさが生まれている。コンクリートには、塩害対策や強度の増加が期待できる、フライアッシュという石炭灰を混ぜた。
「建築中に気付いたんだけど、波が高い時などは内部で波音が響く。祈りの歌のようでコンセプトや空間にもマッチしていると思った」と國定さん。「波音を鎮魂歌にして、美しさと物悲しさを感じながら平和を祈る場になってほしい」と思いを語った。
平和の塔から見た外観は、合掌して頭を下げる姿勢をイメージ。右の壁が隣接するレーダー施設を隠して、内部からは見えないようにしている
駐車場から直接アクセスできるよう階段も設置した
内部から駐車場側を見る。3枚の壁で屋根を支える
平和の塔を意識した直線のスロープ
合掌する手をイメージして壁を配した出入り口
<気になるコト調べます!一覧>
取材/川本莉菜子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1873号・2021年11月26日紙面から掲載