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2023年11月17日更新

屋上床 謎の膨らみ|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第8話(築45年のRC造住宅 屋上の床スラブ)

文・下地鉄郎(インスペクション沖縄メンバー、既存住宅状況調査技術者)

住宅の劣化状態などを調査して報告する「インスペクション(建物診断)」。今回は屋上床スラブにできた謎の膨らみを、インスペクション沖縄の下地鉄郎さんが探っていく。

 第8話(築45年のRC造住宅 屋上の床スラブ)

屋上床 謎の膨らみ

 相談内容 
築45年の鉄筋コンクリート造2階建て住宅。柱や外壁にひびなどの劣化が目立ってきたほか、屋上では部分的に膨らんでいる場所もある。原因をはっきりさせてほしい。

 現場の特徴 

・築45年の鉄筋コンクリート造
・柱、外壁、軒裏にひび
・屋上の一部に膨らみがある
・10年ほど前にコンクリートのひび割れや爆裂の補修をした

 


屋上。赤線で囲まれた部分が膨らんでいる


2階ベランダの軒裏(屋上スラブの裏側)。爆裂の補修跡があるが、補強はされていない




 防 水層の膨れか?

建物の図面や写真などをメールで送ってもらい、電話でヒアリング。家主によると、10年ほど前にコンクリートのひび割れや爆裂を補修し、定期的なメンテナンスも行っているが、以前はなかったひび割れが目立ってきたという。

さらに「最近気付いたのだが、屋上に水がたまるようになり、見てみると部分的に膨らんでいる箇所がある」と話す。

ひび割れについては経年によるものだと考えられるが、屋上の膨らみについては以下の仮説を立てた。

 仮説 
(1)防水層内に空気や水が入る「防水層の膨れ」か、(2)スラブ内の鉄筋が酸化などによって膨張し、コンクリートを押し出す「爆裂」かのどちらかであろう。


 補 修跡と重なる膨らみ

現地調査では建物全体のひび割れや過去の補修跡の範囲を記録。屋上床の膨らみには切り込みを入れて調べてみたが、水や空洞はなく、防水層の膨れではないと分かった。

改めて図面を見ながら、床の膨らみの範囲と照らし合わせてみると、床スラブの裏側にある補修跡の範囲と重なった=図参照。

そこで補修跡を再確認。爆裂の補修で、劣化したコンクリートを除去した後に、防さびなどの塗装をしただけのようだ。特に軒裏では補強はされておらず、コンクリートや鉄筋の欠損も見られた。

その影響からか、屋上床スラブの端にあるコンクリートの手すりでは、外側への傾きも見られた。

 

 



屋上ののコンクリート製手すり。水平器で計測してみると、大きく傾いていた
 

 長 期的な荷重でたわみ

調査結果から、欠損のあるスラブに、コンクリートの手すりや床スラブ自体の荷重が長期的にかかっていたことで「たわみ」が発生し、屋上床が部分的に盛り上がったと分かった。

家主には傾きや膨らみの計測結果をその場で説明し、補強の方法をいくつか伝えた。しばらくは大丈夫だが、長期的にはたわみ続けるので、経過を観察しつつ、計画的な補強工事をおすすめした。

家主は「これから予定している全体的な防水・塗装工事の際に補強工事も行えそうだ」と安心したようだった。



 解決策・アドバイス 
◆補強工事の方法としては、支柱を追加したり、繊維補強などいろいろある。費用対効果とともに、将来的な安全面を優先した補強を検討する必要がある
◆屋上床スラブにかかる荷重を軽くするため、コンクリート製手すりを撤去し、アルミ製手すりにするのも選択肢の一つ
◆爆裂の補修はコンクリートを落とした後に、鉄筋を防さび塗装し、軽量モルタルなどで埋めるのが一般的。ただし、今回のように長期的に荷重がかかり将来的にたわみが発生しそうな場所では、補強工事の検討もしてほしい





しもじ・てつろう/一級建築士、(株)クロトン代表取締役
電話=098・877・9610


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1976号・2023年11月17日紙面から掲載

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