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2025年5月9日更新
酸素と水から鉄筋守るメンテ|知っておきたい!補修・改修のキホン⑭
今ある家に住み続けるには定期的なメンテナンスが欠かせないが、何から手をつけていいか分からない人も多いのでは? 外装を中心に建物全般の補修改修を手掛けるタイズリフォームの赤嶺雄一郎さんにポイントを解説してもらう。今回は鉄がさびるメカニズム、鉄筋コンクリートの代表的なメンテナンス法などを紹介する。

文・赤嶺雄一郎 (株)タイズリフォーム代表取締役
酸素と水から鉄筋守るメンテ
皆さまこんにちは。前回はコンクリートの中性化やひび割れから侵入した雨水などにより鉄筋が腐食・膨張することで一体構造が崩壊し、建物の寿命が短くなることをお伝えしましたが、そもそもなぜ鉄はさびるのかご存じでしょうか。鉄がさびることは、実は自然界ではごく普通のことです。もともと鉄の原料である鉄鉱石は、大気中の酸素と結び付いて酸化鉄として地球上に大量に存在しています。
溶鉱炉では鉄鉱石(酸化鉄)を化学反応により脱酸素させることで銑鉄が作られます。この頑丈な鉄は「酸素と水」の両方にさらされると、再び酸化鉄に戻ろうとします。
保護膜を壊す塩分とCO2
沖縄国際海洋博覧会が開催された1970年代には建築ラッシュのため、十分に洗浄されていない海砂を使用した建物が造られ、早期に劣化する現象が多く見られました。
確かにコンクリート内の塩分濃度が高いと、鉄筋表面の保護膜が破壊されやすくなりますが、鉄がさびるには酸素と水の二つが必要です。同様に中性化(コンクリート内部に侵入した二酸化炭素などがアルカリ成分と反応し、中性に近づく)で鉄筋の保護膜が破壊されてもすぐにさび始めるわけではありません。
大きなひび 三つの補修法
コンクリートの代表的劣化であるひび割れは、発生部位・幅・深さなどによって修繕の方法が多様に変化します。
軽微なひび割れにはフィラーと呼ばれる補修材を擦り込みます。大きなひび割れの場合は工具を用いて、ひび割れを広げた後にシーリング材を充填する「Uカットシーリング工法」=写真1、樹脂を注入してひびを埋める「エポキシ樹脂注入工法」=写真2=などがあります。
■写真1

ひび割れを拡幅後に柔らかいシーリング材を充填する。下地に動きがある部位などに適し比較的安価だが、拡幅時に大量の粉塵と騒音が発生する欠点がある
■写真2

樹脂をひび割れや隙間に注入して補修・補強を行う。実績のある優れた工法だが、注入量のコントロールが難しく、比較的高額である
また、コンクリートの表面に塗布されたモルタル層が劣化で浮き上がることをモルタル浮きと呼びます。この浮きが比較的小範囲の場合には、コンクリートに達するまでドリルで穴を開けた後に樹脂とネジ状のステンレスピンで固定する「アンカーピンニング樹脂注入工法」で補修します=図1、写真3。
■図1

アンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法はモルタル層やタイル層に生じた浮きを撤去することなく、コンクリートに固定する。既設仕上げ材を残す補強工法のため、安価であることが最大のメリット
■写真3

エポキシ樹脂注入後、ステンレス製アンカーピンを挿入している
爆裂はモルタルを塗り上げ
爆裂の修繕方法は、鉄筋の周りの浮きさびを可能な限り除去した後にさび止め材を塗布。その後、補修用モルタルで埋め戻す方法が一般的ですが、さびには水分が含まれているため、さび落としが不十分だと比較的短期に爆裂が再発することがあります。
一般的な補修用モルタルにはセメントと水が使用されます。セメントが水と反応して硬く固まることを水和反応といいます。対して、水を使わない樹脂モルタルは主剤と硬化剤を一定の割合で反応硬化させるため、水和反応に比べて短時間で硬化します。加えて水を使わないため、爆裂が再発しにくいのもメリットの一つです=写真4。
■写真4

エポキシ樹脂系モルタルは材料が軽量かつ高強度であることから、垂直面や天井面への厚塗り施工ができることが特徴。主に防水・止水、断面修復などの用途で使われる
DIY シーリング材に注意
ひび割れや爆裂部に大量の「シリコン系シーリング」でDIY補修された建物を診断する機会があります=写真5。シリコン系シーリング材はホームセンターなどで安価で販売され、気軽に使用される方も多いと思いますが、塗料を弾く性質や汚染性が高いため、塗装や防水工事の際には原則全撤去する必要があります。
DIYで塗装や防水工事を実施される場合は、変成シリコンやポリウレタン系のシーリング材を使用されることをお勧めいたします。
■写真5

シリコン系シーリングは耐候性や密着性が高く価格もお手頃だが、汚染性が高く塗料や防水材を弾く。撤去が広範囲にわたると、相応の撤去費が発生する場合も

【教えてくれた人】
あかみね・ゆういちろう/㈱タイズリフォーム代表。1級建築士、マンション維持修繕技術者、既存住宅状況調査技術者、宅地建物取引士
(株)タイズリフォーム
電話=098·975·7815
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2053号・2025年05月09日紙面から掲載