メンテ
2023年10月20日更新
時間帯で消える証拠|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第7話(集合住宅の1階床にできたシミ)
文・下地鉄郎(インスペクション沖縄メンバー、既存住宅状況調査技術者)
第7話(集合住宅の1階床にできたシミ)
時間帯で消える証拠
相談内容
築5年の3階建て鉄筋コンクリート造集合住宅で、床色が部分的に変色する現象が続いている。床の張り替えを考えているが、その前に原因を調べてもらって、同じことが起こらないようにしたい。
現場の状況
・建物は鉄筋コンクリート造3階建て。築5年の集合住宅
・シミが発生するのは1階の床。他の階では発生しない
・湿気対策のため、どの階も一日中エアコンを稼働させている
1階床に発生したシミ
①午前10時ごろの犬走り土間。建物の陰になっており、エアコンドレン水によって全体がぬれている
②正午ごろの様子。直射日光が当たり、土間はほとんどぬれていない
見 たことないシミ
今回の相談はアパートを営む大家さんから。メールで送ってもらった写真を見ると、床材の表面にあまり見たことがない斑点模様のシミが分布している。間取りや設備などは全階同じだが、シミは1階でのみ発生するという。
そこで図面と写真を確認しながら、以下の仮説を立ててみた。
仮説
エアコンの風が当たる範囲とシミの範囲が近いので、エアコンの冷風の影響が予測される。あるいは「2・3階では発生しない」「住人の生活スタイルに大きな違いはない」とのことなので、外部の湿気が関係している可能性もある。
シ ミ部分の床 高い水分
現地調査ではまずシミの分布範囲を記録。エアコン冷風とおおよそ一致していることを確認した。
床材の水分を測ると、シミのある範囲は周囲より数値が高い。床下は、湿度を測るとともに、サーモカメラで熱分布状況を確認し記録していった。
次に、風速計や視覚化するためのスモークなどを使い、空気の流れを推測。全階ともに、床下換気口から室内の換気設備までの空気の流れ方を確認した。
太 陽光で蒸発
調査の終盤、計測記録、写真、図面などを総合的に分析。すると、犬走り土間を写した2枚の写真に違いが見つかった。1枚は午前10時、エアコンドレン水で土間全体がぬれている=写真①。もう1枚は正午、土間は乾いている=②。
大家さんから「湿気対策として、どの階も1日中エアコンを稼働させている」と聞いていたため、土間はエアコンのドレン水が常に流れ続けてぬれていると思っていた。しかし、太陽高度の高い時間帯だけ直射日光が当たり、一気に蒸発して乾いていたのだ=図。
そして、水蒸気をたっぷり含んだ熱い空気が1階床下換気口から床下に侵入。クーラーの冷風によって床材の表面付近で結露が発生し、それがシミ状に現れたと考えられる。シミが1階だけだったのは、2・3階の床下換気口の高さまで、蒸発した空気が届かないためだろう。
解決策・アドバイス
◆全階のエアコンドレン水が犬走り土間全面に流れないよう、ドレンホースを延長するか、自然浸透升(雨水などを地面にしみ込ませて処理する升)をドレンホース付近に設ける。
◆あまり見たことのないシミだったのは、床材に使われていたのが、清掃しやすく丈夫にするため硬質塗膜が施された新建材だったからだと考えられる。
しもじ・てつろう/一級建築士、(株)クロトン代表取締役
電話=098・877・9610
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1972号・2023年10月20日紙面から掲載