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2019年7月19日更新

四方に開く“島の家”|(株)GAB

[お住まい拝見 |中央が集いの場 個室は四隅に]渡嘉敷島のKさん宅。四隅に個室があり、その間の十字部分が集いの場所だ。中央には鉄骨柱が立ち四方すべてから出入りできる、傘のようなユニークな家を訪ねた。


Kさん宅はシンプルな長方形。中央には鉄骨柱が立つ。四隅に配された個室の壁と、先の柱が家を支える。離島で建築費がかさむことから、仕上げ材を省いてコストを削減した


中央に鉄骨柱の “傘”空間

Kさん宅
混構造(CB+木+鉄骨)
自由設計/家族3人

ど真ん中に鉄骨柱。そこから放射状に延びる枝柱が木組みの屋根と一体となり、巨大な番傘を広げたような渡嘉敷島のKさん宅。「来客は一様に驚き、天井を見上げる」と笑う。大胆な造りは、どこか島らしさも感じる。「そうそう。気持ちが良いし、落ち着く。最初から違和感は無かった」。

外観は集落になじむ赤瓦屋根の平屋。いわゆる玄関は無い。ひんぷんの先にある掃き出し窓から出入りする、昔ながらの造りだ。


外観。赤瓦屋根やコンクリートブロックの壁など集落でよく用いられる建材を使い、かつ屋根はあまり高くせずに集落になじませた。コンクリートブロックは室内側はもちろん屋外側もしっかり研磨されている。「普通の鉄筋コンクリートの壁と変わらない」とKさん。現場を担当した豊崎さんは「手間をかけ、隅々まで研磨したかいがあった」と話す

一方で、間取りは「昔ながら」とは真逆。古民家は居室が中央に集まっているが、小嶺さん宅は個室が家の四隅に分散している。その間の十字部分に、キッチンや内テラスなどの集いの場がある。十字の先はすべて掃き出し窓で、四方から出入りできる。風通しも良く、驚くほど涼やかだ。

築100年超の実家が建っていた場所に新築。「前の家は湿気がこもりがちだったけれど、新居では全然気にならない」。家の中央部まで明るいのも気に入っている。

夫婦の寝室と母親の寝室は、内テラスを挟み対角に配されている。「引き戸を開けていればワンルームになり、閉めればプライバシーもしっかり保てる。変わった家だと言われるけど、住めば快適です」。

むき出しも「楽しい」
実家の建て替えを決め、知り合いの建築士に設計を依頼。そこから完成まで8年掛かった。理由は、離島のため輸送費などのコストが掛かり、費用の折り合いが付かなかったこと。そこで建築士とともに、使う建材を取捨選択。仕上げを省くなどして予算を抑えた。

例えば壁はコンクリートブロックがむき出しだが「丁寧に研磨してくれたから、手触りはコンクリートの壁と変わらない」。仕上げを省いた天井も「バンガローみたい。開放的で楽しい」と母親。

住人が心地よく楽しく暮らしていることが、この家から感じるおおらかさの源なのだろう。


仏壇のある和室。仏壇はKさんの要望通り南に向けた。盆正月は、人が集うKさん宅。引き戸を開け放てば和室と内テラスがひと続きになり、大人数にも対応


北側の内テラスからキッチン、和室などを見る。段差の無いワンルーム的な造りで「お掃除ロボットが大活躍している」とKさん。北側の内テラスは引き戸が付いていて、閉じれば客間になる

ここがポイント
構造=デザイン 棟換気で涼しく
渡嘉敷島の集落になじませるため、外観は「遊びたいのを我慢して(笑)、シンプルに造った」とGABの濱元宏さん。赤瓦屋根にコンクリートブロックの壁、ひんぷんには島でよく使われている花ブロックを用いた。

内装は、そこに木と鉄骨が加わる。これらの建材は「本島であらかじめ加工でき、島では組み立てるだけで済む」。人件費を削減できる建材を選んだ。

K邸の設計で念頭に置いたのは「構造=デザインにすること」。コストを抑えるため、大部分で仕上げ材を省く必要があった。そこで、むき出しの構造をもデザインの一部にしようと考えた。中央の鉄骨柱もその一つ。「鉄骨だと細く済むし、枝を出すなど、デザイン的にも面白いものが造れる」。この柱と、四隅に分散させた個室の壁で家を支える。台風が心配だったが、「2018年の24号にも耐えた」。

間取りは、「人が集える空間がほしい」との要望と、「島ならではの景色を取り込みたい」との濱元さんの思いをすり合わせて生まれた。「敷地の東側にはサンゴの石垣があった。Kさんは『新しいのを作って』と言っていたが、これは非常に貴重。当たり前の自然を改めて噛(か)みしめてほしい」と、絵のように石垣を切り取る開口部を設置=下写真。その先の十字を集いの空間にし、個室を四隅に配した。


敷地の東側にあるサンゴの石垣を木サッシで絵画のように切り取る。東西の開口部は、折れ網戸とアルミの雨戸のみ。ガラス窓は設けなかった。「Kさんが『前の家でもずっと網戸のままで、ガラス戸はあまり使っていなかった』と言っていたので省いた」と濱元さん

もう一つ、「涼しくて湿気がこもらない家」という要望もあった。「家全体に風が通る間取りと、屋根の一番高い部分(棟)に設けた換気口がミソ」と実施設計を手掛けた豊崎孟史さんは語る。「四方の窓から入った風が、熱気を棟へ押し出す。雨が吹きこまないよう雨仕舞もしっかり行っている」。各個室の壁を天井まで到達させていないのも、コスト減と風通しに一役買っている。


キッチンの背後に浴室やトイレなどの水回りがまとまっている。濱元さんは「換気口などの配管をあちこちに出したくないので、一カ所にまとめた」と話す



[DATA]
家 族 構 成:夫婦、母親
敷 地 面 積:281.00平方メートル(約85坪)
1階床面積:134.35平方メートル(約40坪)
建 ぺ い 率:47.8%(許容なし)
容 積 率:47.8%(許容なし)
用 途 地 域:都市計画区域外
躯 体 構 造:混構造(コンクリートブロック+木+鉄骨)
設         計:(株)GAB 濱元宏
施   工:(株)GAB 豊崎孟史
構   造:KKSエンジニア 坂本憲太郎
電   気:HANDS 新垣久
水   道:島設備 島雄二 ライフ工業 我喜屋奨



[問い合わせ先]
(株)GAB
098-987-7331  
http://www.gab-okinawa.com


撮影/比嘉秀明 取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1750号・2019年7月19日紙面から掲載

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東江菜穂

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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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