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2025年10月10日更新

「リノベーションまちづくり」の嶋田洋平さん 沖縄で生まれ変わらせた、築50年のマンション|こだわリノベ

空き物件の再生から地域を盛り上げる「リノベーションまちづくり」の実践者として有名ならいおん建築事務所(東京都)代表の嶋田洋平さん(49)が、沖縄にも拠点を構えた。中古マンションの壁や天井は生かし、床は透明樹脂で水面のように塗り替えた。廃材などで家具や照明も製作し「沖縄を感じられる非日常空間」に生まれ変わらせた。

 
 中古マンションを 
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 嶋田洋平さんのセカンドハウス 
築50年2LDKマンションの水回り以外の壁を取り払って、ホテルのようなワンルームにリノベーション。ファブリックや照明、絵画などの青がリゾート感を演出。空間コンセプトは「Grand Bleu」

リノベ前

 改築前の希望 
既存の持ち味を生かしつつ、沖縄の自然や文化が感じられるリゾート空間に

床・家具・照明が「海」演出
 
らいおん建築事務所の嶋田洋平さんは昨年、浦添市にセカンドハウスを設けた。「そろそろ50歳になるし、夢だった二拠点生活をしようと思ったときに、もう一つの拠点は大好きな沖縄1択だった」。

物件探しで出合ったのが、築50年のマンション。室内は「廃虚のように」腐食し、さらには住宅ローンの審査に通りにくい「借地権付き」の難あり物件。しかし、リノベーションのプロである嶋田さんの目には「掘り出し物」と映った。「広々としていてポテンシャルは高い。しかも那覇空港から20分という最強の立地」。ボロボロの壁でほほえむライオンの落書きがダメ押しだった。「脳天に稲妻が落ちた。その場で妻に電話して、購入の許可をもらった」。
 
物件購入の決め手となったらいおんの落書き

ここをどう楽しもう-。「沖縄滞在の場所なら、心身を癒やすリゾートホテル的な空間にしたい。水回り以外の壁は取り払ってオープンにし、沖縄の海を感じさせる家具や照明をちりばめよう!」とリノベがスタートした。
 
リノベ前

内装は高温・多湿でボロボロになっていた

家具やアクセント照明、インテリアは青を基調にした。2枚の絵画はこの空間のために美術家の中島麦さんが制作したもの

 
グラン・ブルー

空間コンセプトは、雄大な青を意味する「Grand Bleu(グラン・ブルー)」。色濃く反映しているのは床だ。フローリングや畳を取り払って土間にし、透明度が高いエポキシ樹脂と、深い青色の蓄光塗料を混ぜて塗布した。夜、照明を消すと幻想的な光を放つ。「美ら海が月に照らされているようなイメージにした」と嶋田さんは話す。
 
床に塗布した蓄光塗料により、夜照明を消すと月に照らされた海のように青く光る

壁は「既存のクロスを剥がしたら、やわらかいピンク色の壁が出てきたので、そのまま生かした」剥がし跡までデザインの一部に。「かっこよく剥がしてね、と施工会社にむちゃぶりをした」と笑う。

既存の持ち味を生かしたワンルームに、自社で設計・制作した照明や家具などが彩りを添える。テーブルは、琉球ガラスの破片や貝殻、珊瑚砂などをアクセントに利用し、ダイニングの照明は「漂着ごみの浮き」を使って作った。青をベースにし、リゾート感を演出する。

「『やってみたい』『面白そう』と思ったことを詰め込んだ。だから、ここに来るたびにパワーをもらえる」と嶋田さん。建物をはじめ、新たな命を吹き込まれたものが魅力を放つ、パワースポットに生まれ変わった。
 

 改修のポイント 
壁・天井は既存の趣を残し、床は塗り替えた。「床が美しければ、空間全体がキレイに見える」という経験則も。

“生かす”ために手を掛け

設計は自社(らいおん建築事務所)で手掛け、施工はリノベーションを主に手掛ける建築会社・(株)カポック(沖縄市)に依頼した。嶋田さんは「沖縄にも、私たちと同じ熱量でリノベに取り組む会社があったから、『グラン・ブルー』は実現できた」と力を込める。カポックの岡戸大和さんは「物件を見て、僕も『伸びしろしかない!面白そう』と思って引き受けた。だけど、めちゃくちゃ大変だった」と話す。

「もともとの内装を取り払って、既存の壁紙は跡もかっこよく見えるように剥がして(笑)、あらわになった躯体をチェックして、必要な場所はきちんと補修して、ひどい黒ずみはある程度消した。“生かす”ために結構、手を掛けている」と話す。それこそがリノベの面白さ。「全面に壁紙を貼ったりペンキを塗ったりすると、新築と変わらない。建物の歴史を残すことが、最高のインテリアになると思っている」と岡戸さんは話す。

そして「床だけはきちんと作り替えた」と嶋田さん。空間コンセプトを反映させただだけでなく「経験上、床が美しければ空間全体が奇麗に見える」という狙いも。岡戸さんも「住まいにおいて、最も人が触れるのは床だから、見た目や質感は大切。面積も大きいし、空間の印象を大きく左右する」と声をそろえる。
 
 
ダイニングのアーム式ペンダント照明は、漂着ごみとして廃棄される漁業用の浮きを活用した。「kapokの事務所にあったライトが格好良かったので、浮きを譲ってもらって作成した」。(写真はkapok提供)
 
ソファはらいおん建築事務所の森下さんが制作担当した。家具デザイナー・大橋晃朗さんのソファにインスピレーションを得て、座面を4層にしている。ファブリックは青を基調に、紅型柄をアクセントにした。フレームはベニア板の製造過程で廃棄される「剥き芯」という木の丸棒と、足場用のジョイントで作成
 
ダイニングやリビングのテーブルは、琉球ガラスの欠片や貝殻、珊瑚砂などを骨材に、らいおん建築事務所の増田さんが試行錯誤しながら人造研ぎ出しで制作した

新しくした部分も多々ある。セキュリティーや気密性の問題から、玄関扉やベランダへの掃き出し窓は新調。「マンションの共用部分にあたることから、管理組合の許可を得て交換した」。

また、24時間稼働式の除湿乾燥機を新たに2台導入。「セカンドハウス兼保養所ということで、閉め切りになる日も少なくない。高温多湿の対策に、水捨て不要の製品を入れることをすすめた」と岡戸さん。

新旧の“いいとこ取り”ができる。それがリノベーション最大のメリットだ。
 
リノベ前



かなり劣化がすすんでいた浴室は設備を一新し、ホテルのような空間にチェンジ
 
 
[DATA]
築 年 数 :50年
専有面積:45.69平方メートル(約13.82坪)
設  計:らいおん建築事務所 嶋田洋平、増田理沙、森下泰地
施  工:(株)kapok 岡戸大和、久保玉井啓、新川秀樹
ファブリックコーディネート:GIFT 森田めぐ美


[問い合わせ先]
らいおん建築事務所
電話=03・5904・9605
https://www.lion-kenchiku.co.jp/
撮影/泉公(ララフィルム) 取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2075号・2025年10月10日紙面から掲載

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