こだわリノベ
2025年10月10日更新
東京と沖縄の「建てない建築家」が語る、コストを抑えるリノベーションの掟|こだわリノベ
空き家が増え続ける現代で「すでに建物はたくさんある。これを活用すべき」と、リノベーションに力を注ぐ、らいおん建築事務所の嶋田洋平さんとkapokの岡戸大和さん。長年、リノベに携わる2人に、費用を抑えるポイントやリノベーションの面白さを聞いた。
こだわリノベ
嶋田洋平さん(東京) × 岡戸大和さん(沖縄) 「建てない建築家」が語る
リノベの掟「解体先行」

リノベーションのメリットは、既存の躯体を活用する分のコストが抑えられること。一方で、見えない部分の損傷や不具合によって想定外の工事が発生し、費用がかさむケースもある。
それを防ぐため「大まかにプランを考えたら、不要な壁や床、天井を解体してみる。そこから本格的なプランニングを始める」と嶋田さんは話す。岡戸さんも「リノベは、老朽化に伴う建物の不安要素を取り除くことが最重要。なので、必要最小限で解体を先行し、躯体や配線・配管の状態を確認する」と話す。
「グラン・ブルー」でも、まず床と壁を撤去。すると、キッチンの床下は想定外の状況だった。「排水管は当たり前に下階のパイプスペースへつながっているものと思っていた。しかし、隣接する浴室の排水管に接続されていた=下写真」と嶋田さん。横に伸びる排水管を見て「床は全面フラットにしたいと思っていたが、その構想は崩れ去った」。
床全体を上げるとコストが掛かるため、キッチンの一部だけ床上げした。こうして「設計の序盤で建物の現状を正しく把握することがコスト削減につながる」と嶋田さんは話す。

グラン・ブルーは築50年の2LDKマンションをリノベした。床と壁を取り払うと、キッチン(正面)から左側の浴室へ排水管が伸びていた
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柔軟な発想でカバー
岡戸さんは、初めて嶋田さんとタッグを組んでの仕事に「場数・経験が違い過ぎ、プロジェクトの進め方や圧倒的なセンスに魅せられた。毎回、打ち合わせのたびにアイデアがどんどん湧いてきて楽しかった」と話す。中古物件にありがちな不具合を、柔軟な発想で乗り越えていく姿に感銘を受けたそう。
例えばグラン・ブルーでは、キッチンをIHにしたことや除湿乾燥機を導入したことで、既存の30Aの電力容量では不足する恐れができてきた。しかし、電線の引き直しも難しいことが判明。そこで大容量の蓄電池に加え、太陽光発電パネルの設置を検討したものの、ベランダは早い時間から影になり、十分な発電量が見込めない。万策尽きたか…と思ったときに「沖縄の風を利用しよう!」という嶋田さんのひとことから、家庭用(600W、48V)の風力発電機を設置した=下写真。

ベランダに設置した風力発電機。システム構築から設置まで、自分たちで行った
「蓄電池は深夜電力を蓄えるなどで役立っているが、風力は思ったほどの発電量がなかった(笑)。それでも、やってみよう精神は勉強になった」と岡戸さんは話した。
取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2075号・2025年10月10日紙面から掲載