[お住まい拝見]ミニマルを楽しむ|松田まり子建築設計事務所|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

沖縄建築賞アーカイブ

お住まい拝見

お住まい拝見

2025年1月31日更新

[お住まい拝見]ミニマルを楽しむ|松田まり子建築設計事務所

[沖縄の気候に合った省エネ住宅]「あれこれ詰め込まず、自分たちに必要なものだけで満たされた空間になりました」と夫妻は口をそろえる。Mさん宅は1LDKのミニマルな造りだが、東西のテラスでLDKを挟み、広がりを演出。そのテラスは自然光や風を取り込み、遮熱の役割を果たす。沖縄の気候風土に合った省エネ住宅だ。

白を基調とした2階LDKの壁には英国バンド「Oasis」のジャケット写真などが飾られている。リビングでMさんがギターを練習したり、夫妻で映画・音楽鑑賞したり、ゆったりと過ごす

花ブロックから光・風巡る

Mさん宅
 RC造/自由設計/家族2人 

「2人暮らしだから、ミニマルな造りを意識したけど、たくさんの居場所があるのがいいんですよ」とMさん夫妻はうれしそう。

西側のテラスが玄関も兼ね、大きな開口をくぐり、LDKへ。壁には好みのグラフィックアートや木家具などが東側のテラスまで整然と並び、白を貴重とした空間と相まってギャラリーのようだ。

テラスに面する窓を開け放っても花ブロックなどで囲んだ外壁のおかげで、「外からの視線が気にならない。LDKに柔らかい自然光が降り注ぎ、風も通り抜けて、気持ちがいいです」。内外がつながった奥行きのある空間となり、「リビングで夫が趣味のギターを練習したり、テラスで2人で晩酌したりして、くつろいでいます」と妻は笑う。
 

2階LDKには西側のテラスから入る。花ブロックの壁が日差しを遮り、床に幾何学模様を映し出し、日ごと季節ごとに模様が変化。機能だけではなく、遊び心も感じられる(写真提供=ブリッツスタジオ・石井紀久さん


シンプルな家だからこそ、キッチンに機能を集約。ワークデスクとしても使えるよう、ゆとりのあるサイズにオーダーした。見た目にもこだわり、「職人の手仕事が残る左官仕上げで、インテリア性も兼ねました」とMさんは話した。
 

床下にフードレンジなどを納めたことで、西側から東側のテラスまで視線が抜けて、より開放的。室内上部に遮へい物が少ないためか、「ギターの音の響きがいい」とMさん


ZEH水準満たし

家造りは当初、Mさんの実家をリフォームしようと計画していたが、「建物も敷地も広すぎて、持て余してしまう」ことから、新天地に2世帯住宅を計画。1階は親世帯が入居予定だ。

暮らして約1年。以前住んでいた家から置いている、高温多湿を知らせる温湿度計のアラームは鳴らなくなった。夫妻は「冷房の使用頻度は減り、日中に照明を付けることも少ない」と話す。太陽光発電や蓄電池は無償のリース型サービスを利用し導入したほか、高性能な省エネ住宅と認められたため、補助金を活用。経済的負担を縮小した。

自分たちに必要なものだけを選び抜き、「ミニマルを最大限に楽しむ暮らし」はこれからも続く。
 

オーダーキッチンと同様に、洗面台は左官仕上げ。トップライト(天窓)から日差しが差し込み、白い壁に反射。室内をほのかに照らすととも、太陽熱を利用して水回りの湿気を飛ばす
 

寝室はLDKとは対照的にコンパクトにまとめ、落ち着きのある空間に

 

ここがポイント

白色塗料+テラスで省エネ

LDKの中央に鎮座するキッチンはオーダーメード。左官仕上げで温かみのある風合いが感じられ、白を基調とした空間に溶け込む一方で、木家具と対比的な色味で存在感が際立つ。ダイニングテーブルやワークスペースも兼ねている


Mさん宅の設計にあたり、建築士の松田まり子さんは「自然光・風を存分に感じられる上、太陽熱も利用して結露などの発生を抑えられるエコな住宅を提案しました」と説明する。

ポイントとなったのは「花ブロックなどで囲んだテラス(緩衝空間)」だ。

まず、風の流れを解析ソフトでシミュレーションし、テラスの位置や花ブロックの形状などを決めた。テラスを花ブロックなどで囲み、LDKを挟むように設けることで、「コンパクトながら奥行きのある空間を演出。緩衝空間は涼風を通しつつ、外からの視線と厳しい日差しを遮る役割も果たします」。
 

東側テラスのベンチでくつろぐ夫妻。ベンチに座ると外からの視線は気にならず、窓を開けてリビングの延長として使うことができる(写真提供=ブリッツスタジオ・石井紀久さん

また白色塗料について、「経年劣化などで建物表面が黒ずんだ場合、コンクリート打ち放しの外壁などがため込む熱は『1』だが、反射性の高い白色で仕上げると、『約3分の1』程度まで下げることができる」と松田さん。これにより、「熱が浸入しても室温は上昇せず、結露やカビ発生のリスクを下げる。しかも、涼風が熱を外に押し出すので、設備だけに頼らずとも、自然の力を生かして快適な室内環境を整えることができます」。設備の使用頻度は少なく、月々の光熱費・エネルギー消費量が抑える。国が定める省エネ基準をクリアすることができ、高性能な省エネ住宅「ZEH(ゼッチ)」住宅の水準も満たしている。

松田さんは「沖縄の気候に適した家は開放型や自然志向と呼ばれる一方で、ZEH住宅は閉鎖型の設備志向に分類にされる。両方の性質を持ち合わせることで、季節や災害時によって、閉じたり開けたりする住まい方が可能」と話した。
 

前面道路から見た外観。一部に開口を設けたことでプライバシーを確保しながら、道行く近隣や遊びに来た人とのコミュニケーションの場にもなる



[DATA]

家族構成:夫妻
敷地面積:150.7平方メートル(約45.58坪)
1階床面積:56.86平方メートル(約16.93坪)
2階床面積:71.38平方メートル(約21.59坪)
建ぺい率:52.74%(許容60%)
容積率:85.09%(許容200%)
用途地域:第1種中高層住居専用地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造
設計:松田まり子建築設計事務所 松田まり子
施工:(株)沖秀建設
電気:(株)セイリング
水道:(株)設備技研
キッチン:(株)昭和厨房
左官:隆左官店

問い合わせ
松田まり子建築設計事務所
電話=090-8291-5256
https://matsudamariko.com


撮影/比嘉秀明 文/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2039号・2025年01月31日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:2478

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る