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2021年3月5日更新

閉じて快適 現代の古民家|島建築(株)

[住宅地でカーテン無しの暮らし|お住まい拝見]
建築業を営む與儀征剛(せいごう)さん(44)の自邸は、首里の住宅街に建つ。木ルーバーで囲まれた中庭を内包し、カーテン無しで伸び伸び過ごせる。木造赤瓦の外観と現代の設備を融合した省エネ住宅だ。

與儀さん宅に玄関は無い。入り口をくぐると、木ルーバーに囲まれた中庭があり、そこで靴を着脱する。人目を気にせずビニールプールを広げたり、読書をしたりと多様に使う。外でありながら室内でもある、柔軟な「アマハジ」のような空間だ
 

暗さが「落ち着く」

與儀征剛さん宅
 木造/自由設計/家族4人 

施主であり、建築業を営む與儀征剛さん。東京都で経験を積んで帰沖。木造の住宅を「沖縄らしい美しさと、現代の機能性を融合して造りたい」と故郷の首里に土地を購入。自邸を建てた。

杉板で覆われた開口部の少ない外観は、住宅密集地でも「カーテンをつけずに暮らしたい」という與儀さんの思いを反映している。

北側の入り口をくぐると植栽やベンチが置かれた中庭が広がる。南東2面のルーバー部から光が注ぎ、タイルの床に模様をつくる。そこは靴を着脱する三和土(たたき)であり、リビングでもある。古民家の「アマハジ」のような空間だ。

ルーバーは、「冬場の日光が室内へ差し込むよう」外から内へ向けた傾斜を付けた。「雨が入ってくることは覚悟していましたが、よっぽどの大雨じゃ無いと入ってこない」。風がそよぎ、雨音が聞こえ、日の動きが分かる。外を感じる空間を内包する。

室内は、あえてムラ塗りをしたモルタルの壁や床と、木がミックスしたやわらかい雰囲気。「少し暗いけど、これが落ち着く。でも2階はもう少し窓を設けて明るくしても良かったかな」と笑う。

中庭より1階の床が低いのは、床下空間を無くしたため。少し下がる造りと、窓の少なさが相まって「『巣』みたいで居心地が良い」とは撮影したカメラマン談。

住んで1年。モルタルの床は「掃除が楽」。窓を少なくし、複層ガラスや樹脂サッシを取り入れた高断熱・高気密の造りで「1階は6畳用のエアコン1台で十分。夏場は冷房を24時間付けっぱなしにしているが、電気代は以前に比べて3千~5千円安くなった」。


杉板に覆われた外観。「首里なので『酒蔵ですか?』って聞かれることもある」と與儀さん。写真左側が木ルーバー、右側の四角い穴が入り口。小さく見えるが2階建て


リビング。モルタルの内装と木が融合したおしゃれな空間
 

中庭は2階天井までの吹き抜けになっていて伸びやか。2面のルーバーから光が注ぎ、閉じた外観とのギャップが面白い
 

余白残した造り

1階の中庭や2階のフリースペースを広く取るべく、「浴室はシャワーのみ。トイレも割り切って小さくしました。2階は二つの子ども室を4畳と最小限にした」。フリースペースは現在、與儀さんの仕事部屋だ。中庭では子どもたちがビニールプールで遊ぶ。余白を残した造りは、コロナ禍でも重宝している。

今昔の建築を見つめ直し、現代に、與儀家に合った住まいをかなえた。
 

2階のフリースペース。デスクに使っているセンダンの木は夫人の祖父から譲り受けた。リビングのテーブルや階段に使っているクスノキも祖父の秘蔵材


2階奥側のフリースペースから二つの子ども室を見る。子ども室は約4畳で、「ベッドと収納棚が置ければいい。フリースペースに机や本棚があるので勉強や読書はそこでできると思う」と與儀さん


1階、キッチンとダイニング。夫人の要望からキッチンは広めに取った。白を基調にした爽やかな空間。モルタルの床や壁は「掃除がしやすくて重宝している」
 

 

與儀邸はスイッチの位置が床から90センチと低い位置にある。これは「上の余白を広く取り天井を高く見せるため」。天井高が2メートル60センチ程度の場所でも高く感じさせる
 

ここがポイント
2階建ても高さ抑え 外断熱で省エネ実現
首里の街並みになじむ住まいは「やはり、赤瓦屋根の木造だと考えた」と、島建築(株)の與儀征剛さん。だが、隣家が近接する住宅地のため古民家のようなオープンな造りは現実的でない。「そこで、外部空間(中庭)を内包する造りにした」。

さらに、希望の居室を確保するには2階建てにする必要があったが、「古民家風の外観で背が高いと、見た目のバランスが悪くなり構造的にも不利。高さを抑える工夫を凝らした」。

配管のメンテナンスやシロアリなどによる腐食のチェックをする床下空間を無くし、基礎部をそのまま床に仕上げた。これにより建物の高さを抑えつつ、40センチほど空間を広くとることができた。「シロアリや湿気が入り込む床下空間を無くしたことで、腐食対策になっている。万が一の漏水にもすぐ気がつくし、メンテも楽」と話す。

土間床でも、「家を丸ごと断熱材ですっぽり覆う『外断熱』にしたので、冬場も冷たさは気にならない」。外断熱に加え、窓は複層ガラスと樹脂サッシを採用。「中庭に面する窓はサイズが大きく、コストが掛かり過ぎるので木サッシにしたが、複層ガラスのおかげで光は通しても熱は通さない。エアコンの効率が上がり、省エネになっている」

木・赤瓦は「沖縄らしい古民家」、樹脂サッシ・複層ガラスは「現代住宅」。さらに「モルタルの壁や床は、コンクリートブロック時代の住まい。モルタルは安価で手に入るので、自分で補修できるのがメリット。外観の杉板も同様の理由で採用した」と説明した。


 

[DATA]
家族構成:夫婦、子ども2人
敷地面積:188.55平方メートル(約57坪)
1階床面積:45.96平方メートル(約13.9坪)
2階床面積:56.29平方メートル(約17坪)
建ぺい率:35.47%(許容50%)
容積率:65.32%(許容100%)
用途地域:第一種低層住居専用地域
躯体構造:木造
設計:島建築(株)與儀征剛、新垣清
構造:ハシゴタカ
施工:島建築(株)
電気:知花電設
水道:功設

問い合わせ
 島建築(株)
 電話098・943・4024


撮影/比嘉秀明 取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1835号・2021年3月5日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
東江菜穂

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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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