家づくり
2025年5月16日更新
住み慣れた家で医師が診察|広がる「訪問診療」の選択[介護を支える 住まいの工夫㊺]
通院が困難な高齢者や在宅療養者にとって心強いのが「訪問診療」。今回は「ゆい往診クリニック」院長の新屋洋平さんに、訪問診療の仕組みやメリット、受け方のポイント、今後の社会的役割について話を聞いた。

住み慣れた家で医師が診察
広がる「訪問診療」の選択
通院困難な人は誰でも「通院が難しい」とき、選択肢の一つとして知っておきたいのが「訪問診療」だ。医師が自宅や施設を定期的に訪れ、診察や投薬、時にはみとりまで行う。しかし「意外とその存在すら知られていないことも多い」と新屋院長は指摘する。
訪問診療の条件は、「本人が1人で通院できるかどうか」が判断基準となる。同居家族がいても、「何とか家族が連れて行っている」場合は利用可能だ。「特に、通院で体調が悪化するリスクがある場合や、待合室で長時間の待機が困難な体調であれば訪問診療の活用を検討した方がいい」と新屋院長。また、「よく勘違いされるが、訪問診療は『医療保険』で提供されているサービスで、介護保険サービスのケアプランに組み込まれていなくても受けられる。ただし、紹介状の取得や現在の通院先との連携などは、家族の働きかけが必要になることもあります」と話す。相談の際には、介護の大変さや家族の負担を素直に伝えることも重要だ。
訪問で見える情報
病状の重症化防止に
新屋院長は、主に中部地区の自宅や高齢者入居施設(住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅、特別養護老人ホームなど)を訪問し、診療を行っている。薬の処方、点滴、注射、胃ろうなど経管栄養の管理、在宅酸素、気管切開や人工呼吸器の管理など範囲は広く、緩和ケア、みとりも行う。「訪問すれば、病院で見えない情報が得られ、病状の重症化を防ぎ、適切なタイミングでの治療にもつながる」と力を込める。(新屋洋平さん提供)
訪問診療のメリット
訪問診療の利点は、通院の負担が減るだけではない。「診察時は、部屋の匂いや整理状況、本人の素の表情、家族との関係性など、病院では見えない情報が得られる」と新屋院長。「患者の暮らしや背景なども診ることで、病状の重症化を防ぎ、適切なタイミングでの治療につながる」と強調。退院後に住み慣れた環境に移ると、安心感から食欲が改善するケースも多く、終末期のQOL向上にもなる。
訪問診療は、基本的に月2回の定期訪問が主流で、病状や希望に応じて調整も可能と説明。医療費は外来通院よりやや高めだが、待ち時間や付き添い、介護タクシーの費用などを含めたトータルコストを考えると、合理的な選択と言える。
在宅介護のニーズは確実に高まっている=下表。同居家族がいても、昼間は1人で過ごす高齢者への訪問診療も増加しており、「離れていても支える」態勢へと移行しつつあると新屋院長は感じている。
65歳以上の人口と訪問診療回数の推計(県内)

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口 令和5年(2023)年推計」
厚生労働省「第7回NDBオープンデータ」よりTKインサイト國吉徹也さんが作成
施設入所者も施設の方針によっては訪問診療を受けられる。入所前に「訪問診療が受けられるか」確認することも大切だ。
「訪問診療は、本人と家族の両方を支える手段の一つ」と新屋院長は強調。利用したい場合は、ケアマネジャーや病院に相談してみよう。また、「どんな状況でも、住み慣れた場所で最期を迎えたいという希望に応える手段はある」と力を込めた。

しんや・ようへいさん/
在宅療養支援診断所「ゆい往診クリニック」院長。(一社)OHS沖縄往診サポート代表理事。中部地区の訪問診療、沖縄の在宅医療推進に尽力
取材/赤嶺初美(ライター)
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2054号・2025年05月16日紙面から掲載