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2024年2月16日更新

ピロティで有機的な街並み|風土と住まい⑨

文・写真/大城禎人(一級建築士事務所 大城禎人建築設計事務所 代表)

沖縄では“下駄履き”と呼ばれるピロティは、1926年にル・コルビュジエが近代建築の新しい手法として主張したことで一般化しました。以後、数々の建築家が人間の生活を豊かにするためにさまざまなピロティ空間を作ってきました。駐車場や道路、庭、人が集まるためのオープンスペース、人々を迎え入れる門、地形への影響を抑えるためなど多様な場面で用いられています。

一方で車社会の沖縄では一家に2台以上の車を所有する家庭が多く、駐車台数を確保できない土地では必然的にピロティ形式の建物となり、それが街並みを形成しています。集合住宅では1世帯に1台以上の駐車スペースを確保した計画が一般的で、敷地内が駐車場で埋め尽くされるというのが現状です。沖縄の社会が作り出す街並みとして致し方ないことではありますが、無機質化しているとも言えると思います。
 
道路からピロティを見る。手前の階段は2階専用。鎖桶の下の壺で熱帯魚を飼っており、通りがかりの子供たちが立ち寄って観察することもある
道路からピロティを見る。手前の階段は2階専用。鎖桶の下の壺で熱帯魚を飼っており、通りがかりの子供たちが立ち寄って観察することもある

ピロティから隣地を見る。風や視線は通り抜け、植栽が程よく目隠し。ピロティ内のプライバシーを確保する
ピロティから隣地を見る。風や視線は通り抜け、植栽が程よく目隠し。ピロティ内のプライバシーを確保する

琉球石灰岩を敷いたアプローチ(撮影:鳥村鋼一)
琉球石灰岩を敷いたアプローチ(撮影:鳥村鋼一)
 

駐車スペースと庭を両立

地価上昇により一戸建てのマイホームを持つことは難しくなったこのご時世、親の土地や実家を建て替えて2〜3世帯住宅を新築するご家庭も多いのではないでしょうか。私もその一人で、200平方㍍の土地に両親、弟、私の家族が住む完全分離型の3世帯住宅を建てました。

やはり一番に出てくる問題は駐車台数の確保であり、必然的に1階はピロティになってしまいます。そこで駐車スペースと庭を両立させることを指針とし、特別な事はせずに車が停まっているときは単なる駐車場、車が無いときには街に開かれたパブリックスペースのような空間を計画しました。駐車台数を最小限の面積で確保するため、ピロティ内に車路を設けず縦列駐車とし、余ったスペースを徹底的に緑化しています。また、通常だとピロティの天井に露出するコンクリートの梁を逆梁にし、フラットな状態にしています。重厚感のある1枚の大屋根に覆われた空間は、緑豊かな広がりを効果的に演出します。

3年間住んだ実感として、近隣の建物もピロティ建築となっているため、風や視線が通り抜け、植栽帯はプライバシーを確保するだけでなく家族や地域の人々とのコミュニケーションを生み出すきっかけとなり、有機的に機能していると思います。


 

新しいピロティ建築に挑戦

沖縄では駐車場としてのピロティ建築の需要が増えていますが、見方を変えれば日本国内では最も新しいピロティ建築にチャレンジができる環境とも言えます。単なる駐車場としての用途ではなく、人間や生物住空間を生み出すピロティ建築を目指すことで、沖縄の有機的な街並みが豊かな風土へとつながると思案します。




おおしろ・よしと
1985年西原町出身。2007年から(株)エー・アール・ジーに勤務。12年から石井秀樹建築設計事務所に勤務。19年、大城禎人建築設計事務所を設立。22年、第8回沖縄建築賞正賞受賞。電話=098・952・3053

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1989号・2024年2月16日紙面から掲載

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