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2024年3月15日更新

暮らしの中に風土を読み 建築に翻訳する|風土と住まい⑩

文・図・写真/伊志嶺敏子(沖縄県建築士会調査研究委員、伊志嶺敏子一級建築士事務所代表)

表題のタイトルは建築家・室伏次郎氏が、私の設計、県営平良団地をご案内した時に言われた言葉です。「気候風土適応住宅」を考える上で、大変重要な視点だと思い、大切にしています。

県営平良団地のコンセプトは、竹富島の集落での発見から始まりました。集落の家々は、ほとんどが陽の方位を向き、石垣・ヒンプン・雨端・一番座・二番座の表座・そして奥の裏座へと続き、間取りの構成にプライバシーのグラデーションがあることに気付きました。開放的な間取りの中にも「閉じつつ開く」という空間構成があるということを学びました=図1・2。外部空間に目をやると屋敷林・石垣、ヒンプンと緩衝帯で囲み、島の外も、外洋の荒波を幾重にも受け入れて和らげるサンゴ礁で守られている構造に気付き、トランプのカードが一気にめくられていくようで鮮やかな解決の発見でした。

それは、台風常襲地の対策として、閉じることのみのシェルター型では日常のアメニティー(快適空間)が成立しないため、自然の緩衝帯で強風を遮り、さらに、暮らしの知恵でプライバシーのグラデーションの空間構成を作り、涼風を招き入れているのです。

 
 図1 



 図2  閉じつつ開く空間構成


 

閉じつつ開く手法試み

そのような竹富島での知見を得て、県営平良団地の設計は緩衝帯のデザイン構成で始まりました。住棟は、外廊下との間に吹き抜けを設け住戸の独立性を保ちながら、ポーラス(多孔質)なサンゴ礁の緩衝構造の引用にもなっています(実際、台風の強風も和らげています)。さらに各住戸の入り口テラスと住戸の奥のテラスは同じ広さで両面性を持たせ、住棟の配置計画に自由度を持たせました=図3。それは、南にベランダ・北に玄関という従来型にありがちな、住棟同士が平行に配置されその間が影になり、おまけに扉一枚で内と外が仕切られているという閉鎖性によって風通しが悪くなることがないよう、それこそ「閉じつつ、開く」という手法を試みました。

この団地の主題は、コミュニティー形成を狙いとした「関係性を育む空間という環境」でしたので、緩衝帯をデザイン要素とし、その可能性を広げて構成しました=図4。その結果、各住戸の扉前にはわが家らしいしつらえ=下写真=も見られ、従来の団地にはない住まい手の暮らしの表情が表にあふれ出て、街並みのような光景が連なっています。=おわり

 図3  両面性のある住戸プラン


 図4   県営平良団地に見る内と外のゆるやかな関係
各住戸が両面に中間領域を持つことで、住み手の作る表情が豊かな住空間を創出。住棟が向き合うことでコミュニティーの一体感が得られる
 

住戸の扉前の様子




いしみね・としこ
1948年宮古島市出身。奈良女子大学・住居学科で学ぶ。質から量への公営住宅の模索期であった1970~78年まで、東京で集合住宅を学ぶ機会を得る。伊志嶺敏子一級建築士事務所 電話=0980・72・2116

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1993号・2024年3月15日紙面から掲載

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