家づくり
2021年6月18日更新
自力のトイレで 心も元気に|介護を支える 住まいの工夫 ③
介護が必要な人も、介護をする人も、安心して安全に暮らせる住まいの整え方を紹介するコーナー。今回は作業療法士の宮良大介さんが「トイレ」についてアドバイスします。
自力のトイレ生きる意欲に
環境を整えるのも重要
要介護の状態になっても、できるだけ介助を受けずに、自分でできるようでありたいと思うのがトイレ。
長年、訪問リハビリで居宅介護をサポートする作業療法士の宮良大介さんは、「介護が必要でも、環境を整えると自分でトイレができるようになる場合が多くあります。排(はい)泄(せつ)は人間の尊厳に関わること。自分でできると本人の精神的な負担が軽減され、日々の生活にも意欲が出てくるようになる。家族の介護負担も大きく減ります」と話す。
なるべく自分でトイレに行けるようにするには、手すりの設置、出入り口の段差解消、ドアを引き戸にする、車いすで移動したり介助がしやすい広さを確保する、片手でも使いやすいトイレットペーパーホルダーを利き手側に設置するなどトイレ内をバリアフリーにするほか、「生活しやすい環境を整えることも大事」と宮良さん。要介護者の居室をトイレに近い部屋にする、移動までの廊下にも手すりを設置し、照明を明るくして下に物を置かないようにする、トイレマットやスリッパといった転倒の原因につながるものは使わないようにするなど、安全と使いやすさへの配慮を忘れないようにしたいという。
介護保険サービスを利用している場合、便器の取り換え、手すりの取り付け、段差解消などの住宅改修は、「居宅介護住宅改修」の給付対象になる。また、手すりなどの適切な設置や改修のためにも、地域包括支援センターかケアマネジャーに相談し、専門家のアドバイスを受けよう。
無理のない排泄ケアを
要介護者の体調や運動機能に良しあしの波が出るのはよくあること。トイレまでの移動が困難な場合は無理せず、ポータブルトイレや尿器、便器、おむつなどの活用を。Aさんの事例=左囲み=のように工夫すれば介護者も楽に。
排泄動作には、尿意や便意を感じてトイレに行き、下着を下ろし、用を足して、後始末をするまで、さまざまなステップがある。これら一連の動作でうまくできない部分を把握し、どのように補助すればいいかを適切に見極めるためにも、作業療法士や理学療法士などの助言は心強い。
宮良さんは「本人の意思を尊重し、運動機能の維持、回復に努めながら排泄ケアをすれば、生活の質の向上、生きる意欲につながります」と力を込めた。
改修前
改修後
車いすで利用できるようトイレスペースを拡張し、段差を解消。開き戸は引き戸に変更し、手すりの設置工事などを行ったことで、完全介助から、自力でトイレができるようになった。(写真/中部修繕センター)
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Oさんのケース
病気で車いす生活になった妻のため、浴室、トイレの順でリフォームしました。それまで、トイレは完全介助でしたが、車いすで便器のすぐそばまで横付けできるよう広く改装したら、自力でトイレができるようになりました。妻の喜ぶ様子に、本当は真っ先にトイレをリフォームすべきだったと思いました。たとえ家族であっても、誰かに手伝ってもらわなければトイレができないことを、妻は私たちの想像以上に気にしていることに気付いたんです。精神的な不安が減って、気持ちが楽になったと話す妻を見て良かったと思いました。
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Aさん
左半身不随の母。昼間は手すりを使えば、時間は掛かっても自分でトイレができるのですが、夜間は間に合わなかったり、転んだりするので、寝室にポータブルトイレを置いて利用しています。最初は寝室にトイレを置くことを嫌がったのですが、専用の消臭剤を使い、内側の容器に大きめのビニール袋をかぶせ、中にオムツパッドを敷いておけば、尿はねや音がしにくく、ビニールごと外して捨てられるので後始末も楽。母の気持ちも楽になったようです。
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みやぎ・やすつぐ/中部修繕センター。福祉住環境コーディネーター2級
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1850号・2021年6月18日紙面から掲載