庭・garden
2019年9月6日更新
【プロがつくる庭】物語ある琉球庭園 白波越えて極楽へ
vol.12 このコーナーでは、和洋問わずプロが手掛けた多彩な庭を紹介します。
中村砂夫さん宅(名護市)
竹垣の向こうは「ニライカナイ」
中村さん宅の琉球庭園にはストーリーがある。写真左側にある木の船が、石が模す荒波を乗り越えて人工竹垣の先にある緑の楽園「ニライカナイ」を目指す
テーブルの天板を船に
サンゴや貝殻が模す大海に浮かぶ大きな木片。大仏の左手のような形のそれは、「ニライカナイ」へ向かう船だ。もともとはこの庭にあったテーブルの天板だが、「船のような形から、庭のストーリーをひらめいた」と、庭師の仲村弘喜さんは語る。
昔から庭に敷かれていたサンゴの白波や琉球石灰岩の大波を乗り越え、目指すのは人工竹垣の額縁に切り取られた緑の楽園。そこにはヒカゲヘゴやソテツなど、南国の植物が青々と茂る。「ニライカナイのイメージなので、沖縄らしい植物を入れた。あえて全容は見せず、絵画のように切り取ることで神秘的な雰囲気を演出している」と庭師。
中村さんの庭は広大で、向こう側には畑もある。それを目隠しすると同時に奥行きも感じさせ、見る人の想像をかきたてる。
敷地に昔からあったサンゴや貝殻などが大海を表す
チヌブでフクギ透かす
庭には施主の中村さんが育てた見事な枝ぶりの盆栽も植えられている。動きのある幹が、庭にリズムを生む。外と庭との間には、琉球竹垣「チヌブ」が設置されている。ひし形の大きな目が、外にあるフクギ屋敷林を透かす
陸と海の高低差で立体感
海の向こうにある陸地には、立派な差し枝のリュウキュウマツが鎮座する。その周囲に茂る小さなクロキやクメジマツゲ、サルスベリやハリツルマサキ、ギーマやアデクなどは、庭の主であるマツに向かって枝を伸ばす。こんもりと緑が茂る陸地と、平らな海のコントラストが庭に立体感を生んでいる。
所々に施主の中村さんが手塩にかけて育てた盆栽も植えられている。龍のようにくねった樹形や、風を受けたような吹き流し形など、さまざまな枝ぶりのリュウキュウマツなどが庭に動きを出している。
外との境には、沖縄の伝統竹垣「チヌブ」を配置。チヌブは、ひし形の目から向こうが見えるのが特徴。フクギ屋敷林に囲まれた中村さん宅で「フクギの緑も庭に取り込みたかった。普通のチヌブよりも目を大きめにしている」と話す。チヌブが無ければ、庭の緑とフクギの緑が同化してしまう。おおらかな竹垣が、植物の存在感を引き立てる。
南国の植物と伝統が息づく庭園。琉球の美が宿る理想郷がそこにあった。
中村さん宅を囲む、立派なフクギ屋敷林
絵画のように切り取られた緑の景色がニライカナイ。ソテツやヒカゲヘゴなどが青々と茂る
竹垣の先にあるニライカナイ。単体でみるより、竹垣越しに見る方が奥行きを感じる
設計・施工/ナカムラ造園土木 098-964-5670
編集/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1757号・2019年9月6日紙面から掲載
この連載の記事
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 東江菜穂
これまでに書いた記事:350
編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。