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2025年10月17日更新
イラン北部の町で見つけた! ラグ専門店のバイヤーが一目ぼれした「宝物」|ラグの世界⑲
イランやトルコなどの中東で手織りされるラグを取り扱う那覇市西の「Layout(レイアウト)」のバイヤー、平井香さんによるラグ買い付け旅記。今回は、アゼルバイジャンとの国境に近い「アルダビール」の街へ。他の地域とは違う独特のラグがある街で「宝物」と出逢ったそうです。

エピソード⑲ イランでの買い付け旅

アルダビールで出逢った「ジールハーキー」という名のラグ。「宝物」という意味だそう
アルダビールのラグはコーカサスやトルコなどの地域の雰囲気をあわせ持ち、いわゆるペルシャンラグの曲線的なデザインとも、部族的な赤いトライバルラグともちょっと違う。
町の中心のバザールは意外と小さく、市民のためのバザールという感じだった。首都テヘランやこれから行くタブリーズなどの大きな町のバザールでは、ラグの店だけが集まる通りがあったり、一角が1日では回り切れないほど広かったりするが、ここは小さな一角にギュッと集まりラグの店は決して多くない。ラグの集積地になるような大きな町以外では、地方の町のバザールまで買い付けに来る人はあまりいない。そのため、バザールは町に住む人たちのための日用品のお店に変わってしまうことが多いとよく耳にするが、やっぱり少し寂しい。
ついに見つけた一枚
買い付け旅では、どこの街でもアルダビールのラグを探しているが、数が少なく良い出逢(あ)いがなかった。しかし、アルダビールのバザールのラグ店で、とっておきの1枚に出逢った。パッと目の前に広げられた瞬間に一目ぼれした落ち着いたオレンジのラグは、たくさんの動物や鳥たちが織り込まれ、楽園のよう。本当は「かわいい!」と小躍りしたかったが、店主の前ではポーカーフェースが買い付けの鉄則。うれしさが顔に出ていたかもしれないが、低めの声で「かわいいね」と言う私が動画に残っていた。
「アルダビールで、このデザインをなんと呼びますか?」と店主に聞いてみると「ジールハーキー」。日本語では「宝物」。名前を付けた人にありがとうと言いたいくらい、ぴったりだったことに感動した。
男性の織り手
その店で、ラグの織り手さんを紹介してもらった。父親から織りを教わって10歳からラグを織っている男性の織り手さんでこの道50年の大ベテラン。このお家では彼しかラグは織らないそうだ。ラグの織り手は女性だと思われることが多いが、男性が織る地域ももちろんある。

アルダビールで出会った織り手のお父さん。この道50年の大ベテラン
織りの構造を教えてもらう中で、ペルシャ語では「ゲレ トルキー」と呼ばれるトルコ結びを「イルマク トルキー」とトルコ語で呼んでいることが分かった。イラン北部の町では、トルコ系の人やアゼルバイジャン系の人も多く、トルコ語で話していることもある。聞き取れないことも多いが彼らは彼らのやり方、呼び方でずっとラグを織ってきた。地域で結びや糸や道具の呼び方が変わるのも面白い。
帰り道、夕暮れに通りかかったモスクの青とタクシーの黄色が印象的だった。今日はこれに似た色のラグをたくさん見つけることができたからかもしれない。

買い付けの帰り道。モスクの青とタクシーの黄色がこの地域のラグのようだった

執筆者/ひらい・かおり
ラグ専門店Layout バイヤー
那覇市西2-2-1
電話=098・975・9798
https://shop.layout.casa
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2076号・2025年10月17日紙面から掲載