2025年11月28日更新
急いでメモ、電話してきた70代の独身男性 退去前の掃除を依頼 片付けのプロが触れた「思い」|人生の輪郭 暮らしが映すもの②
片付けや掃除のプロとして悩める人々をサポートをする、暮らしかたらぼの代表・根原典枝さんが「人生の輪郭」を綴る。今回は、生涯独身で母親の介護をしてきた70代の男性。みとりを終え、少しでも家賃の安いアパートに引っ越したいと、今のアパートの掃除を根原さんに依頼。たくさんの不安を抱えながらも最後に家を整え、新たな1歩を踏み出した。

文/根原典枝(暮らしかたらぼ)
ストーリー② 親の介護終えた独身70代男性
片付けや掃除のプロとして悩める人々をサポートをする、暮らしかたらぼの代表・根原典枝さんが「人生の輪郭」を綴る。今回は、生涯独身で母親の介護をしてきた70代の男性。みとりを終え、少しでも家賃の安いアパートに引っ越したいと、今のアパートの掃除を根原さんに依頼。たくさんの不安を抱えながらも最後に家を整え、新たな1歩を踏み出した。
不安を整理 踏み出した1歩
退去前の掃除依頼
テレビ番組で「暮らしかたらぼ」の家事代行サービスを紹介してもらった翌日、一本の電話がかかってきました。電話の声は70代くらいの男性でした。
第一声は「テレビに出てたお掃除の方ね?」「はい、そうです」と答えると、電話の向こうでホッとしたように息をつかれ、こう話されました。「放送してるとき、テレビのある部屋とは別の部屋にいてね。掃除の話が聞こえたから急いでテレビの部屋に行って、紙とペンを探して電話番号を書き留めたんだよ。番号、合ってて良かったさー」。
慌ててペンを取り、電話番号をメモした様子が浮かび、本当に必要とされていることを感じました。
ご依頼は、アパートを退去する前に掃除をお願いしたいというものでした。「退去時のお掃除は不動産会社が対応してくださることが多いですよ」とお伝えすると、男性は静かに言いました。 「自分が汚したところは、できるだけ自分で掃除してから出たいと思ってるんだ。でも足を悪くして思うように体が動かなくてね」。その言葉に、律義で誠実な方だなと感じました。

「迷惑をかけたくない」
訪問日を決め、後日お伺いしたのは2LDKのアパート。独り暮らしの部屋に荷物や家具はほぼなく、居間にはお仏壇とテレビ。もう一つの部屋には服や片付け途中のアルバムなどがありました。台所には掃除道具がきちんと並べられ「掃除をしようと思いながらも、できなかったんだな」と感じました。
お掃除をしていると、その人の暮らしが見えてきます。どんな時間をここで過ごしてきたのか。何を大切にしてきたのか、部屋が静かに語りかけてきます。そしてご本人も、少しずつお話を聞かせてくださいました。
生涯独身でお母さまの介護を続け、最期までみとったこと。無理をして続けた夜勤の仕事で腰と右足を痛めてしまったこと。すぐには老人ホームへ入ることが出来ないこと。今は仕事もできないため、少しでも家賃の安いアパートへ引っ越したいこと。しかし、次の移り先を探せず困っていること。アパートの保証人を甥御さんにお願いしており、迷惑をかけたくないこと。
たくさんの不安を抱えながら少しずつ物を整理している最中でした。そんな中でお掃除を依頼してくださったことに心から感謝の気持ちが込み上げました。
立つ鳥跡を濁さず
数回通わせていただき、無事にお掃除が終了。後日、お礼の電話を差し上げると、「きれいになった部屋を見ると、いつもよりお酒もおいしいさぁ」とうれしそうな声。そして「役所から、身寄りのない人の住まい探しを手伝う民間の支援機関を紹介してもらって、新しい一歩に向けて動いているよ」。
自分の中の不安や思いを話すことで頭の中が整理され、次の行動へとつながったことをうれしく思いました。それは物の整理の手順にも似ています。物の整理の手順は「出して、分けて、減らして、戻す」。心や思考の整理にも通じます。男性にとっての掃除は、単に汚れを落とすことではなく、これまで過ごした家に感謝し、丁寧に締めくくる「儀式」みたいなものだったのでしょう。まさに「立つ鳥跡を濁さず」。
私もまた、常に家に感謝し磨き整えながら生きていきたいと、改めて思いました。
執筆者

ねはら・のりえ/
1972年うるま市出身。3人の子育てに追われる中、テレビ番組で赤字企業が3S「整理・整頓・清掃」を通して再生する様子に感化され、2010年に片付け・掃除で悩む人をサポートする(株)暮らしかたらぼを設立。
080・2731・8883
https://kurashikata.co.jp
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2082号・2025年11月28日紙面から掲載









