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2024年8月16日更新

子のそばで織る母親 当たり前の中で継承|ラグの世界⑦

イランやトルコなどの中東で手織りされるラグを取り扱う、那覇市西の「Layout(レイアウト)」のバイヤー・平井香さんによる買い付け旅記。今回は遊牧民族をルーツに持つ人たちが製作する「トライバルラグ」が集まる町で買い付けをしながら織り手の家を訪ねた。

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エピソード⑦ イランでの買い付け旅記

次の目的地はイラン北東部のマシュハド。ここはトライバルラグ(遊牧民族をルーツに持つ人たちが製作するラグ)の中でもバルーチやトルクメンといった民族のラグが多く集まる町だ。イラン第2の都市と言われ、聖地・イマームレザー廟(びょう)を中心に栄えてきた。おいしいラムチョップとアイスがあり、大好きな町のひとつ。
 
マシュハドで、ヴィンテージトライバルラグをセレクト


「好きだから」織る

マシュハドでは、ヴィンテージのトライバルラグの買い付けと共に、ラグの織り手たちが暮らす村へ足を伸ばすと決めている。マシュハドから南、バルーチの人たちの生活圏であるトルバテヘイダリエの町へ。前回もお世話になったアリザデさんにラグの織り手の家まで案内してもらう。

連れて行ってもらったのは、30代くらいの女性とその家族の家。現代的なリビングのある家で寝室のベッドのすぐ横に織り機が置いてあり、赤いラグを織っている途中だった。 

彼女は、子どもの頃から親戚の女性に織り方を教わりラグを織っていたが、結婚・出産後はしばらく織っていなかったそう。「ラグを織るのが好きだからまた始めたんだよ」。経糸にウールの糸を結びナイフで切っていく姿は確かに少しゆっくりに見える。ウオーミングアップとでもいうようにラグを織り進める姿はとても楽しそうで私もうれしくなった。 

織り機の後ろのベッドで赤ちゃんが遊んでいて、すぐそばでお母さんがラグを織っている。こういう光景は彼女たちのご先祖様がまだ遊牧民だった時代から当たり前のようにあったはずだ。心の温まる光景だった。
 
家でラグを織る女性。出産後、久しぶりに織るそうで、ゆっくりした手さばき


果樹園でピクニック

彼女の家を出ると、アリザデさんから「果樹園へピクニックに行こう」と突然のお誘い。私たちは先を急ぐから「また次回!」と断ろうと思っていたが、子どもたちも集まっていると言うので、行ってみることにした。

みんな大好きなザルドル(黄色の小さくて甘いモモのような果物)の木が並ぶこぢんまりとした果樹園で、奥の木陰にレジャーシートやブランケットを敷いて親戚や子どもたちが座っている。いいお天気で外は暑いが、木陰は爽やかで風が通って気持ちがいい。 

チャイをいただいている間にお母さんたちがアシュというスープを作ってくれた。アシュは豆と野菜を煮込んだ少し緑色のスープにきしめんのような太いパスタが入っている。優しい味がくせになるイランの家庭料理だ。皆で円になり、遠足のように外で食べるアシュは格別だ。

食後にはまたチャイを淹(い)れて、日本語教室が始まった。子どもたちは日本語に興味津々。わたしは子どもたちからペルシャ語を教わり、楽しい時間を過ごさせてもらった。 

お誘いしてもらったときは行ってみるべきだなと改めて思う。滞在期間が1カ月あるとはいえ、行きたい場所が多過ぎてスケジュールを目いっぱい詰めてしまう。だが、現地の人たちと一緒にご飯を食べ、コミュニケーションをたくさんとって、普段の暮らしを体験させてもらえることは何にも変えることのできない貴重な体験だ。
 
子どもたちとピクニック。アシュという豆と野菜とパスタのスープをいただいた

 

執筆者/ひらい・かおり
ラグ専門店Layout バイヤー
那覇市西2-2-1 電話/098・975・9798
https://shop.layout.casa

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2015号・2024年08月16日紙面から掲載

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