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2024年9月20日更新

技術や文化つなぎつつ織られる「今」のラグ|ラグの世界⑧

イランやトルコなどの中東で手織りされるラグを取り扱う那覇市西の「Layout(レイアウト)」のバイヤー、平井香さんによるラグ買い付け旅記。今回はトルクメンの人たちが暮らす町へ。そこの織り手は技術や文化を守りつつ、違う地域のデザインも取り入れてラグを製作していた。

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エピソード⑧ イランでの買い付け旅記

約1カ月のイランの旅も終盤。北東部のマシュハドからカスピ海の近くにある「ゴンバデ・カーブース」という、トルクメンの人たち(トルコ系民族)が多く暮らす町へ向かう。

途中、急に車窓の景色が変わり、険しい山々が見えてきた。ここは「ゴレスターンナショナルパーク」というユネスコ自然遺産でもある国立公園。原種に近い野生の羊やヤギもいるそう。あちこちに車が止まっていて、家族でキャンプをしたりシートを敷いてご飯を食べたりしている。イスファハンでは世界遺産でサッカーをしている子たちがいたように、イランは守らなければいけない遺産と人とのバランスが絶妙だ。美しい景色や建造物は暮らしの一部で、自然と目に入る環境で暮らすことで感覚が研ぎ澄まされ、それがラグにもつながっているように感じた。
 
トルクメンの織り手。糸の結び方はトルクメンの「ヤムード」というグループ独特のものだが、デザインは他の地域からインスピレーションを受けている


トルクメンの町へ

朝から約500キロの移動を経て、やっと目的地へと到着した。町の名前でもあるゴンバデ・カーブースとはここにある鉛筆型の塔のこと。世界遺産にも登録されていて、世界で最も高いれんが造りの塔ということをはじめて知った。塔は工事のため足場で覆われていたけど、その隙間から美しいれんがとアラビア語のカリグラフィー(装飾文字)を見ることができた。

このあたりは中央アジア系の顔立ちで私たちと近い雰囲気の人も多いからか、親近感がわく。道行く人たちの服も、デザインや色使いがより華やかで、まだ来たばかりだというのに妙に居心地よく感じた。

次の日、町から少し離れた村へラグを織るトルクメンの人たちに逢(あ)いに行った。華やかなワンピースを着た3人の女性たちが1枚の大きなラグを織っている。

カラフルな空間でドンドンと、キャルキド(結び糸や緯糸をたたいて詰める道具)の音がリズムを作る。3人がバラバラのタイミングでたたいて音を出しているようだが「これは馬が走る音だよ」と教えてもらい、トルクメンの人たちがかつて騎馬民族だったというイメージとぴったりと重なった。
 
町の名前でもある、鉛筆型の塔「ゴンバデ・カーブース」は工事中だった


「いいラグ」とは

彼女たちが織るラグのデザインは、違う地域のラグからインスピレーションを受けている。だが、糸の結び方は確かにトルクメンのヤムードという、彼女たちのグループが使う結び方。

ここ数年、イランのさまざまな地域を訪れたが、織る人のルーツとラグがイコールではないことが当たり前にある。

私たちと同じ「今」を生きて、ラグの技術や文化を守りつないでくれている人たちがいる。彼らと出会い、一緒に時間を過ごすほど、簡単に「伝統的なラグや古いラグの方がいい」とは言えない。

「いいラグ」の基準は人それぞれ。ラグを暮らしに取り入れたいと思ったら、誰かが言う「古いから」「織りが細かいから」など歴史やルーツではなく、自分の「いい」や「好き」のキモチを一番に優先してほしい。そうすれば長く愛せるラグと出合えるのではないか、と思う。
 
町で出合ったトルクメンのラグ

 

執筆者/ひらい・かおり
ラグ専門店Layout バイヤー
那覇市西2-2-1 電話/098・975・9798
https://shop.layout.casa

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2020号・2024年09月20日紙面から掲載

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