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2023年12月29日更新

[インスペクションを再生に活用]優先順位変えて修繕|ヒビ目立ち始めた築18年の外人住宅

うるま市の高台に立つ、築18年、RCB(鉄筋コンクリートブロック)造の2階建て。いわゆる外人住宅で、中城湾を一望できるのが魅力だ。


 

Cさんが所有する建物の外観。建物奥側は視界が開けていて、中城湾を一望できる

 

どこに相談すればいいんだろうとモヤモヤ

うるま市の高台に立つ、築18年、RCB(鉄筋コンクリートブロック)造の2階建て。いわゆる外人住宅で、中城湾を一望できるのが魅力だ。

Cさん(58)がその物件を購入したのは11年前。当時はまだ賃貸中で、「住んでいる人が退去したら、両親との二世帯住宅にしよう」と考えていた。

数年後、住人は退去したが、Cさん家族の状況が変わり、民泊施設として運営することに。

年月をへるごとに少しずつ建物に劣化の症状も見え始めた。目に見える部分は自分で補修していたが「外壁のヒビが目立つようになり、お客さんに満足してもらう施設として、見栄えだけでなく安全性も気になってきた」という。しかし、「予算的に全体を一気にやるのも難しいし、どこに相談すればいいのか、何から手を付けていいのかも分からず、もやもやしていた」。

そんな時、知り合いからインスペクションについて教わった。Cさんは「今は民泊施設として使っているが、将来的に私たちが住むかもしれない。どちらにしろ建物を長持ちさせたいので、まずは専門家に見てもらおう」と、(有)リノプラにインスペクションを依頼することにした。


 Cさんの悩み 

・築18年のRCB造で、外壁のヒビが目立ち始め、テラスのタイルも割れてきた

・安全性が気になるし、建物を長く持たせたいが、全体にお金をかけるのは難しい。相談する先も、どこから手を付ければいいかも分からない



縦方向にいくつものヒビが見られる外壁。調査員によると「直線的なヒビはブロック積みの特徴。ブロックを積んだ際にできる目地に沿ってヒビが発生している」

テラス。何枚ものタイルにヒビが入っている。全体的に浮きも見られる

 

外壁のヒビよりも屋上の修繕を早く

依頼を受けたリノプラの調査チームはまず、Cさんが気にしていた外壁のヒビをチェック。直線的なヒビがあみだくじのように広がっていた。図面を確認すると、この建物を支えている主要構造部は柱や梁、スラブなどの鉄筋コンクリート部分で、外壁はブロック積みとなっていて主要構造部には含まれない構造物であることが分かった。

調査員は「ヒビの大きさなどからブロック本体のヒビではない。ブロックの仕上げ材である表層モルタルが、経年劣化によってひび割れたもの」だと判断。外壁が主要構造部ではないことからも、経過を観察しつつ、ヒビの再発や外壁を塗り替えるタイミングなどで補修するようアドバイスした。

「それよりも早急な対応が必要」と指摘したのが屋根。防水塗装がめくれ、コンクリートの素地が見えている部分もあった。「一般的に屋根スラブは主要構造部。経年劣化とともに躯体に雨水が浸入すれば、内部の鉄筋が腐食し、コンクリートの爆裂などにつながる可能性もある」

室内の点検口から天井裏も確認したが、ヒビなど見られなかった。「幸い、内部への影響はまだのようだが、建物の劣化はこういう端部から進行していくケースが多い。早めに防水塗装をやり直した方がいい」と説明した。

続いてテラスのタイル。何枚もヒビが入り、全体的に浮いていた。テラスに面した窓の室内側の床も変色し、めくれていた。「いずれも見晴らしのいい南面。見晴らしがいい分、影になるものがなく、紫外線を受ける時間が長いことなどが要因と思われる。建物の強度に影響はない」

そのほか、水回り機器やコンセントの電圧など家中を隅々まで調査。屋上防水以外は大きな問題はなかった。それらを書類にまとめてCさんに手渡しながら、一つ一つの状況を報告した。

調査員は「大がかりな修繕が必要になる前に屋上防水のはがれを発見できてよかった」と振り返る。加えて「今後どうするかはCさんの判断に委ねられるので、修繕したい場所は各専門業者に相談し、適切な方法を選んで修繕するように」と伝えた。
 

人間ドックの感覚で心配事が一つ減った

報告を受けたCさんは「外壁の表層モルタルのヒビよりも、まさか屋上の方が危なかったとは。めったに見る部分ではないので意外だった」と驚いた。

そして早速リフォーム会社に相談し、修繕を依頼。「当初は外壁のヒビの修繕を最優先に考えていたけれど、優先順位を変えて、屋上防水から修繕することにした」とCさん。見栄えとケガ防止のため、テラスのタイルと室内床の一部も張り替えた。

一方、外壁については「ひびが小さい内に補修と塗装をする予定」だという。

Cさんは「専門家に見てもらったおかげで、お金のかけ方も、今後の修繕計画についても参考になった。人間ドックを受けた時のように心配事が一つ減った感じ。これからも愛着を持って建物を維持していきたい」と話した。



 リノプラによる調査報告(一部)

◆外壁→ 経過観察 

・ヒビが入っているが、仕上げ材として使われているモルタルのヒビなので主要構造部に影響はない。ヒビの大きさが0.5ミリ以下で、中に水が入らないよう補修もされているため、外壁を塗り替える際などにまとめて補修すればOK

・触ると白い粉がつく「チョーキング」の症状が出ているので、塗り替えも早めにした方がいい


◆屋上の防水塗装→ 要修繕 
・全体的に塗装(トップコート)および防水塗装が薄くなっている。特に端の方では、防水塗装がめくれてコンクリートが見えている部分もある。ここからコンクリート内部に雨水などが浸入すれば、爆裂などにつながり、より大掛かりな修繕が必要になる可能性がある。すぐに修繕した方がいい


◆テラスのタイル・南面の室内床→ 経過観察 

・テラスタイルの割れは、タイルとその下のコンクリート土間との密着性が経年劣化で弱くなったことで、タイルが浮き、紫外線による熱膨張で割れたものと思われる

・南面の窓に面した室内床が青っぽく変色し、めくれている。紫外線や雨の吹き込みなどにより劣化が進行した

・テラスタイルも室内床も建物の強度などに影響はない


◆その他→ 問題なし 
・天井裏はコンクリートのスラブや梁に、ヒビなどは見られず、きれいな状態

・水回りや電気系統も問題ない



 Cさんが修繕した部分 

・屋上防水を最優先に塗り直し
・テラスのタイル全面と室内床の一部を張り替え


防水塗装をやり直した屋上。瓦との境目部分まで、丁寧に塗料が塗られている


バーベキューなどでよく使われるスペースなので、安全のためにも全体を張り替えた

変色していた部分だけ張り替えた室内床。もともとは下部のような白い石調の模様だった



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取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 年末年始特別号
第1982号 第1集 2023年12月29日紙面から掲載

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「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。

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