琉球藍染めの服 畑から生み出す|オキナワンダーランド[53]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2021年4月30日更新

琉球藍染めの服 畑から生み出す|オキナワンダーランド[53]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。 文・写真/馬渕和香

LEQUIO 嘉数義成さん


嘉数義成さんは、“農業する”ファッションデザイナー。伝統ある島の天然染料、琉球藍の「沖縄ならではの色合い」に魅せられ、東村の畑で自ら栽培を行う。着ているジャケットとTシャツは自家栽培した藍で染めたもの


ファッションデザイナーの嘉数義成さんにとって、服作りの第一歩はデザイン画を描くこととは限らない。時には、畑に出て土を耕すことから始まる。

「4年前から、東村で畑を借りて琉球藍を栽培しています。農業をした経験のない全くの素人ですので、今も試行錯誤の連続です」

沖縄で古くから藍染めの染料として使われてきた琉球藍。嘉数さんは幼い頃から、琉球舞踊家の母が持っていたクンジー(紺地)などの着物を通してその色合いになじんできた。

しかし、原料を栽培するところからこの染料を手掛けたいと思うまでになったのは、20代半ばでファッションデザイナーとして独立し、自身のブランド「LEQUIO(レキオ)」を宜野湾市で立ち上げてからだ。ある時、琉球藍の栽培や染料作りに携わる人々と出会い、「沖縄ならではのその色合い」に改めて惹(ひ)かれた。藍産業に若い後継者が少ないことも、「自分に何かできることはないか」と思う気持ちにつながった。

「レキオという、(数百年前の)大交易時代の琉球の呼び名をブランドの名前に付けたのは、当時の人々のように、僕もまた沖縄に根ざしたよいものを掘り起こして外に発信していきたい、という思いからです。琉球藍が沖縄ならではの染料ならば、ぜひレキオで取り組みたいと思いました」

ファッションデザイナーでありながら“畑違い”の農業に飛び込み、「一から勉強して」栽培を始めたが、甘くはない現実の洗礼をすぐさま受けた。


刈り取った藍から染料を取り出すための設備。嘉数さんが自ら設計し、ホームセンターで手に入る資材を改造して作った。「色素を沈殿させるタンクの蛇口一つとっても、取り付ける位置を計算して割り出さなくてはならず、難しかった」


「1年目のことでした。それまで順調に育っていた苗が、台風で一瞬にしてほぼ全滅してしまったんです。目の前の現実を受け入れられないとはこういうことかとあの時知りました。立ち直るのに時間がかかりました」

しかし、嘉数さんは「やめる選択肢をもともと持っていない」人だ。「同じ失敗を繰り返すまい」と、植えつけ時期や土壌、光の当て具合や水やり加減を工夫して最適な栽培法を模索し続けた。収穫はまだ少なく、目標の量を生産できるのはあと数年先だが、畑の隣に整備中の施設で染料作りを既に始めており、藍栽培から染めまでを一貫して行える体制を整えつつある。

「これまで自分のことを、(無から有を生み出すという意味で)ゼロから1を作ることに向いた人間だと思ってきました。だけど琉球藍に関しては、ゼロからというよりマイナスからの出発でした。そしてまだ、ゼロにさえ達していません」

「まだまだ勉強中」と話す嘉数さん。腰を据えて取り組むために、畑に近い場所に家を借りて週の半分はそこで過ごす。


“沈殿法”と呼ばれる方法で行う染料作りは、「理科の実験のように科学的」な面があるため、大学の研究者らに協力してもらっている。「ゆくゆくは工程を数値化し、“見える化”して、誰でも染料が作れるような仕組みを整えたい」


「本土の藍に比べて、琉球藍はファッションのプロの間でさえあまり知られていません。僕のなりわいであるファッションを通して、今の時代に合う藍染めを提案し、沖縄のこのすばらしい染料を発信していきたい。未来に受け継がれるよう、精いっぱいのことをしていきたい」

「あきらめる選択肢を持たない」嘉数さんのことだ。壁にぶち当たっても乗り越えて、いつか志を遂げ、マイナスからの出発を大きなプラスに転じるに違いない。


デザインから藍作り、染めまで全て自身で手掛けた作品。「琉球藍染めを現代のテイストに合う形で提案したい。伝統を未来に残すには、時代に沿って変化していくことも大事だと考えています」(写真提供・レキオ)



ファッションデザインを学んでいた学生時代、全国コンテストで上位入賞した実績を持つ。薄い生地を何百枚と重ね合わせた写真のドレスは、ガジュマルの根をモチーフにデザイン。服作りのテーマは常に沖縄だ

LEQUIO ☎︎098・893・5572

オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景

 

[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<53>
第1843号 2021年4月30日掲載

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