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2023年4月14日更新

沖縄の「グスク」が設計のヒント 若手建築士が提案する、豊見城市・海軍壕公園の新展望台|ティーダフラッグス2022

若手建築士の育成を目的に県が主催する、40歳以下対象の設計競技「ティーダフラッグス2022」の最終審査が昨年末に行われた。

 若手建築士の設計競技 金賞に伊波慶洋さん 

海軍壕公園内に新展望台

若手建築士の育成を目的に県が主催する、40歳以下対象の設計競技「ティーダフラッグス2022」の最終審査が昨年末に行われた。第11回目となる今回の題材は豊見城市にある海軍壕公園内の展望台の設計。応募46作品の中から金賞に選ばれたのは、㈱国建の伊波慶洋さん(26)の「史繋門(しけいもん)」。今年度から工事に向けた設計を進め、来年度に工事を行う予定だ。伊波さんから提案のポイントを聞いた。



伊波慶洋さん(国建)


  海軍壕公園(豊見城市) 
計画対象地の図(沖縄観光コンべンションビューロー提供)

計画地は海軍壕公園内で標高が最も高く、那覇市や豊見城市の様子、東シナ海などが一望できる。老朽化で2020年に撤去された展望台=左図枠内=の新設案を県がティーダフラッグスで募った。琉球王朝期には船の入港を知らせる「ヒ―バンムイ」があった場所。現在、周辺には戦争の史料を展示・保存する海軍壕公園ビジターセンターや慰霊の塔がある。


  アーチ型の入り口 グスクをヒントに  

「史繋門」は直方体の四つの側面をアーチ型の門で切り取ったような形をしている。設計意図について伊波さんは「沖縄のグスクに見られる、アーチ型の入り口を抜けて広がる光景や石積みに育つ植物の姿を参考にして、案に取り入れた。シンボリックな外観は訪れた人を展望台に誘導する」と説明した。門は、コンクリート柱や梁(はり)などの周りに石を敷き詰めて、形成。ワイヤ状の鋼材で囲うことで、より安全性を確保している。

石積みは一部をくぼませてベンチ代わりにしており、四つの柱それぞれに設けた。海軍壕公園ビジターセンターや慰霊の塔など公園を訪れた人が休憩できるようにしつつ、ベンチを追加で造作する必要がないため、コストもかからない。「展望台の下には凄惨(せいさん)な戦争の記憶が残っている。座る場所によって違った景色を楽しむとともに、戦後の荒廃地から現在の県内の姿に発展してきたんだと、しのぶ場にもなってほしい」と話す。 石積みにはワイヤに沿って育つ植物を配して、時間をかけて変化する建築物の姿が緑豊かな周囲の環境に溶け込むように工夫した。さらに、石をワイヤ内に積みきるのではなく、あえて上部に余白を設けることで、空との一体感を演出。伊波さんは「経験の浅い自分が受賞するとは思わなかった。職場の方々のサポートもあり、こだわったアーチや外観のかたちなど自分の考えを案に落とし込めたのが受賞につながったと思う」と述べた。


展望台内部から見た風景イメージ。門が額縁のような機能を果たして、風景を切り取る。



ベンチのイメージ。展望台の周囲には視界を遮るものがないため、腰かけても風景が一望できる


計画地を上から見た図。図中央にある四つの柱が史繋門。それぞれ白い部分にベンチが設けられている


史繋門のパース。ワイヤ内上部は石を積まないことで、「建物と空が一体となっているように見える」と伊波さん


【受賞者】
金賞 伊波慶洋さん=前列右から3人目
銀賞  ADeRチーム(前列左からそれぞれ、知念はるかさん、金城聖来さん、仲宗根巧さん。中村彩友美さんは当日欠席)
銅賞  玉城力さん(根路銘設計)=前列右から2人目
学生賞 吉川知編さん(琉球大学大学院)=前列右


 


取材/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1945号・2023年4月14日紙面から掲載

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