特集・企画
2024年2月9日更新
若手建築士の設計競技 金賞に石原さん・多城さん|学生が初金賞 沖縄県総合運動公園に新たな炊事場|ティーダフラッグス2023
若手建築士の育成を目的に県が主催する「沖縄県アンダー40設計競技(ティーダフラッグス2023)」の最終審査が1月25日に行われた。題材は沖縄県総合運動公園オートキャンプ場内にあるキッチンハウスの建て替え。応募39作品の中から金賞に選ばれたのは琉球大学大学院の石原卓弥さん(28)と多城直樹さん(24)の作品で、学生賞とのダブル受賞となった。学生が金賞を受賞するのは初。実施設計などは専門家からのサポートを受け、完成に向けた工事を開始する予定だ。受賞者から提案のポイントを聞いた。
石原卓弥さん 多城直樹さん(琉球大学大学院)
県総合運動公園内(沖縄市)
計画対象地の図(県総合運動公園HPより、一部加工しています)
設計課題である県総合運動公園内のキッチンハウス=上図○部=はピザや焼き芋などの料理教室が年15回ほど開かれる会場として使われる。さらに、周囲に点在するオートキャンプ場は年平均で1万人以上が利用するなど、多くの人が使う炊事場となっている。
金賞・学生賞 四方からアクセス 作業しやすい動線
計画対象地の周囲にはキャンプスペースが点在し、北側には多目的広場、西側には事務所がある。石原さんと多城さんはキャンプ場利用者らの利便性に配慮して、どこからでもアクセスできるよう四方に開口を設けた。
特に、キッチンハウスの正面となる南側の屋根は高さを約5.8メートルとし、西側に30度回転させた。正面の開口が縦にも横にも大きく広がるよう計画。石原さんは「大きく開くことで風通しをよくしつつ、事務所との間にある広場などと一体的に使えるようにした」と説明する。
また、北側の屋根は高さ約4メートルとし、屋根に傾斜をつけた。「調理時に出る煙が傾斜にそって流れ、排煙効果を高めている」。キッチンハウス内はかまどや石窯などをワンセットとし、4本の柱にそれぞれ設置。中央に共有の作業台を設けることで、作業動線が短くなるよう工夫している。
建物の構造は大学の教授に相談したという。多城さんは「海近くに立地しているため、コンクリートを厚くし鉄筋を保護。塩害がないよう配慮した」と話す。屋根が交差した外観はヒヌカンへの願掛けの意味も込められている。審査員からは「よく考えられ、学生が設計したとは思えない案だった。機能的で使いやすいキッチンハウスとなっていた」と声が上がった。
南側から見たキッチンハウス。炊事場としてだけではなく、周囲にベンチなどを設け、活気のある広場としても利用できる(3枚のイメージ図は2人がCGで制作したもの)
西側立面。キャンプセンター事務所からもキッチンハウスにアクセスできる
俯瞰図。屋根が交差したシンボリックな外観とすることで、周囲から一目で分かる
サポート体制整え 案実現へ
今回で12回目の開催となる「沖縄県アンダー40設計競技(ティーダフラッグス)」。学生が最終審査に残り、さらに金賞に輝いたのは初めてのことだ。
石原さんは「うれしいより驚きが一番。せっかくのチャンスを無駄にせず、責任を持っていいものを造りたい」と喜びを語った。多城さんは「学生で金賞受賞は初ということで、悪い前例とならないよう、実施設計も頑張っていきたい」と意義込みを語った。
今後、県と委託契約した設計事務所が2人をサポートし、設計業務に着手する。審査委員長の伊礼智氏は「学生が最終審査に残るだけでも素晴らしいことなのに、まさか金賞を受賞するとは思わなかった。多くの方のサポートを受けて、実施設計も頑張ってほしい」とエールを贈った。
【受賞者と審査員】
銀賞(前列左から)山内盛悟さん、松本岐成さん(Five Dimension)
銅賞(前列右)大城彦樹(久友設計)
審査員は伊礼智委員長=後列左から4人目=をはじめ、県の担当課、公園管理団体、建築3団体の代表者などが務めた。
取材/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1988号・2024年2月9日紙面から掲載