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2024年3月1日更新

[寄稿]アジアの蒸暑地域におけるRC造の保全に向けた課題 今帰仁村中央公民館での国際シンポを終えて|保存活用=地域に関わり続けること

文・写真/國分元太(東京理科大学創域理工学部建築学科嘱託助教、ホーチミン建築大学客員研究員)

2月17日に東京理科大学山名研究室主催の国際シンポジウム「アジアの蒸暑地域における鉄筋コンクリート造建築物のサステナビリティ:保全に向けた課題」が今帰仁村中央公民館で開催された。近現代の文化遺産論を専門とする山名善之教授(東京理科大学)を主査とした鹿島学術振興財団の国際共同研究の枠組みで企画された。

登壇者の講演に聴き入る参加者

今帰仁の好例 視察し議論

鉄筋コンクリート(以下RC)は19世紀中ごろにフランスで開発され、20世紀から汎用性をもった技術である。今日、RC造の建物は一般的であるが、20世紀初頭のフランスでは、市民生活を支える駅舎や市場などの公共施設の多くは鉄骨造で建てられていた。一方で、新しい技術であるRCを用いて積極的に市民のための建物を造る必要があったのは、仏領インドシナ(現在のベトナム・ラオス・カンボジア)などの植民地においてであった。これらの国は沖縄と同様に蒸し暑い気候で、20世紀初頭に建設されたRC造の建物は百年近く残っているものもあるが、その劣化や保存・活用が課題となっている。今回のシンポジウムでは、ベトナムや台湾など沖縄同様の気候環境の国から専門家を招き、今帰仁村中央公民館を含む沖縄のRC造の建物を視察しながら、歴史的なRC造の建物を保存・活用していくための実質的な課題の共有、議論が行われた。

会場である今帰仁村中央公民館は1975年に象設計集団とアトリエ・モビルの設計によって造られたRC造の建物である。公民館は建て替えの危機を迎えたが、建築材料学を専門とする今本啓一教授(東京理科大学)と同教授の研究室に博士課程として所属する建築家、根路銘安史氏(アトリエ・ネロ)によって調査・研究が行われたことで、昨今では建物の再活用の方針が見いだされている。このような好事例を、沖縄と同じ蒸暑気候に属するアジア各国の専門家に実際に見てもらい議論できる点に、今帰仁村中央公民館で国際シンポジウムを開催する意義があった。

基調講演として、公民館の設計者であるアトリエ・モビルの丸山欣也氏と浅沼秀治氏から「琉球から学んだこと」と題して発表が行われ、気候風土を考慮した公民館の設計思想や、村民と積み重ねてきたワークショップについて当時の写真とともに伝えられた。

 
シンポジウム後に参加者で記念撮影

各国の現状と課題共有

シンポジウムは三部構成で開催。第一部は「今帰仁村中央公民館の改修と活用」と題され、今本教授からコンクリートの劣化について、根路銘氏から公民館を対象に行われてきたコンクリート劣化調査と改修について発表があった。また、今帰仁村の比嘉克雄副村長から公民館を含むエリアの今後の計画について説明があった。

第二部は「アジア各国の現状と課題」として、各国のRC造建築の保存・改修事例や課題について報告がなされた。ベトナム・ハノイで文化遺産を重視しながらの開発を念頭にした都市計画指針策定を多く手がけるスリーズ・エマニュエル氏(PRX-Vietnam/ IPRAUS)からは、1927年にハノイに建設されたインドシナ大学の建物を事例に報告があった。この建物はRCだけでなく鉄や木が使用された混構造であり、建物頂部のドームにRCが使用されていることが資料調査と実地調査から確認された。現在はRC部が劣化して鉄筋が露出している部分があり、仕上げ材で覆われた部分に使われているRCについて、どのように補修を行っていくべきかという課題が共有された。

グエン・カム・ズオン・リー氏(ホーチミン建築大学)からは、ベトナム、ホーチミンシティにおける歴史的なRC造建築として1914年に竣工したベンタイン市場が紹介された。この時期に建設された市場建築はプレキャストコンクリートのように部材を組み上げていく建設方法がとられたことからか、百年ほどたつ今日でもコンクリートがそれほど劣化していないものが多い。その他、グエン・マン・チー氏とゴック・ラン・チュオン氏(ハノイ建設大学)、王維周氏(国立台湾師範大学)からも各地の事例が報告された。第三部ではより専門的な各論として、大田省一准教授(京都工芸繊維大学)、細矢仁氏(細矢仁建築設計事務所)、チン・ビンコウ氏(東京理科大学博士課程)、筆者が発表した。



公民館で夜市 集い賑わう

本国際シンポジウムは、RC造建築保存・活用のための課題を共有し、各国でこれからの活動へつなげていくためのスタートとなるようなものであった。シンポジウム後に開催された夜市では、建物で囲われる外部空間に村民が集まり賑わいをみせていたことも印象的であった。今帰仁村中央公民館をとりあげたことによって、建物に手を入れながら使い続けていくことは、建物のまわりのコミュニティに関わり続けることであることが再認識され、その重要性が国境を越えて共有されたのではないだろうか。




[執筆者]
こくぶ・げんた/1992年生まれ。2024年3月までホーチミンシティに滞在し、仏領期インドシナの建物について歴史的な調査・研究を行う。博士(工学)。

毎週金曜発行・週刊タイムス住宅新聞
第1991号・2024年3月1日紙面から掲載

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