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2021年3月12日更新

新しい沖縄建築をつくる試みと挑戦|フェスティバルビル(那覇市)|建築探訪PartⅡ⑨

次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。

フェスティバルビル(那覇市)

美しき島の街づくり過去・現代・未来 
-9-

沖縄は亜熱帯気候の島しょ地域に位置し、本土の地域とは異なる美しい自然と温暖な気候風土を持つ魅力ある地域だ。だから建物を設計する建築家にとって沖縄はとても興味深い所だ。私が知るだけでも三十数人の著名な本土建築家が沖縄の特異な気候風土を鑑み、「沖縄の建築はこうあるべきだ」という力作を沖縄で作っている。四十余年前、名護市役所庁舎のコンペ(審査委員 清家清・槇文彦他)で308案もの応募案があったのは有名な話である。選ばれたのはteamZOO、地元の建築資材コンクリートブロックを使った開放的な建物だった。この建物は日本建築学会賞をもらい、今や観光ガイドブックにも出る名所となっている。



フェスティバルビル当時の外観。建物は36mの立方体、均等スパンのラーメン構造、外壁は20角の型枠コンクリートと花ブロックで、内外とも打ち放し仕上げだった。沖縄の気候風土を考えた建築家安藤氏の力作(写真/ワキ ヒロミチ)



建物中央部の「光の井戸」の吹き抜け部分。屋根がなく、外部の光や風や雨が入る(写真/ワキ ヒロミチ)



中央部の吹き抜け部を道路側から見る。この階段が取り壊され、地階に通じる階段が作られた(写真/ワキ ヒロミチ)

光と風と影が孕む箱

1984年、那覇の国際通りの一角に建築家安藤忠雄設計の「フェスティバル」というファッションビルができた。今では安藤は世界的建築家だが、当時はまだ住宅と商業ビルを設計し「住吉の長屋」という住宅で建築学会賞を取ったばかりの時期だった。建築専門雑誌で20ページもの写真と長い論文でこの建物を発表し、建築設計への深い思いや沖縄建築の探求などが書かれている。この建物のコンセプトは「光と風と影が孕(はら)む箱(36メートル立方体)」で、地下1階地上8階、均等フレームのラーメン構造で20センチ角の型枠ブロック・花ブロックを多用した打ち放し仕上げの建物だ。1階は商業ビルらしく人々を導き入れる巧妙な建築的仕掛けがあった。各階プランは「光の井戸」という吹き抜けや広場を持ち、風や光が通り抜ける外部廊下と店舗エリアが並ぶ。沖縄の特異な自然を取り入れ、天候や時間によって刻々と様相が変化する感動的建築で、高い評価がされた。


建築家安藤忠雄の初期のスケッチ。外部との関係や建物構造やコンクリートブロックの納まりなど、この建物のコンセプトと多くのアイデアが描かれている(GA architect 8より)

沖縄らしい発想

しかし、この建物は96年ファッションビルOPAに、2014年ドンキ・ホーテになった。建物全体を塗装、開口や階段などが大改装され、今ではフェスティバル当時の面影はない。沖縄らしい建物や街並みを願って建物を設計することは設計者の傲(ごう)慢(まん)なのだろうか。沖縄も本土と同じような建物や街並みになりつつある。光も温度もコントロールされ、雑多なものが並ぶ建物が増えている。沖縄に建つ建物なら、もっと新しい発想で沖縄らしさを感じさせるものがあっていいのではないか。

フェスティバルの建物は沖縄の陽射と影が重視され過ぎ、雨天時の工夫が足りなかったのか、店舗が本土感覚でハイセンス過ぎ、もう少しマチヤグヮー的雰囲気があったほうが良かったのか。こんな地元特有の難しさが、本土の建築家にとっては魅力だ。やはり地元の建築家の出番だ。


現在の中央部の吹き抜け。改装された手すり部分に大型スクリーンや雑多な看板などがある。上部にはテント屋根がある


現在の外観。全面塗装され、外壁に大きな開口や看板がつく。安藤建築の面影はなく、雑多な国際通りの街並みに溶け込む


ふくむら・しゅんじ
1953年滋賀県生まれ・関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。97年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、県総合福祉センター、沖縄県国際都市形成構想による基地跡地利用計画、普天間基地跡地計画他

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1836号・2021年3月12日紙面から掲載

 

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