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2020年10月23日更新
空き家4割が放置状態|空きスペースでまちづくり
総務省統計局が5年ごとに発表する「住宅・土地統計調査」によると、2018年の県内にある空き家の約4割が放置状態。全国的に増え続ける空き家を利活用、または危険なものは撤去しようと国が施策展開するも、県内での活用事例は少ない。地域によっては空き家が狭い道路に面する、活用・撤去する費用の工面が難しいなどがその理由で、ハード面や家主の意識面に課題が残る。そうした県内の現況と、空き家などのオーナーの意向もくみ取り、地域の課題解決に活用する先駆的な事例を紹介する。
県内の空き家の現況と課題
沖縄県の空き家率は、全国に比べて低いものの、増加傾向にある=グラフ1。5年ごとに行われる総務省統計局の「2018(平成30)年住宅・土地統計調査」によると、18年の県内空き家総数は6万7900戸で、住宅総数(65万2600戸)に占める空き家率は10・4%。15年前と比べて0・4ポイント増、数にして1万6100戸増加している。
グラフ1 県内空き家の推移
2018(平成30)年住宅・土地統計調査結果(総務省統計局)より作成
空き家のうち、賃貸用住宅、売却用住宅は減る一方、長期不在や取り壊し予定の空き家、利活用状況が不明な空き家である「その他の住宅」は増え続けている。その他の住宅は、不動産市場に流通しない放置された空き家とも言え、その数は2万6800戸、空き家全体の約4割となっている。そのうち放置された一戸建て住宅は、空き家全体の約3割=グラフ2。ほとんどが鉄筋・鉄骨コンクリート造で、約半数が腐朽・破損がないという結果になっている。
グラフ2 空き家の利用状況
( )内はその他の住宅に占める割合を示す
倒壊危険高ければ行政撤去も
国は、全国で増え続ける空き家を利活用しようと、さまざまな支援制度を設けている=下囲み。①空家対策特別措置法は、空き地をポケットパークに活用、倒壊の危険性が著しく高いものは撤去するなど、指定する空き家などを行政代執行で利活用・撤去できるようになるもの。同法を活用すべく、県内各市町村でも空き家の実態調査や計画策定の取り組みが進んでいる。ただ、個人の財産にどこまで行政が関与するかは課題だ。
空き家対策に関する施策など (一部抜粋)
①空家対策特別措置法
市町村が策定する「空家等対策計画」に基づき、指定された空き家の活用・撤去を支援する
②低額の低未利用地の譲渡所得特別控除(特例措置)
土地と建物の取引額合計が500万円以下、都市計画区域内の空き地を、要件を満たして売却した場合、売り主の長期譲渡所得から100万円を控除
○その他、空き地・空き家バンク、住宅セーフティーネット制度、長期優良住宅化リフォーム事業など
狭い道や費用も妨げの要因
空き家の利活用が進まない原因は、旧耐震、所有者が不明など住宅の状況に加え、地域のさまざまな状況や所有者の利活用への抵抗感などもある。例えば那覇市は、戦後の生活再建でいち早く市街化した地域で木造住宅が密集。道路が狭く、建て替えなども困難で、敷地の狭さや権利関係の複雑さも原因になっている。また、今帰仁村や伊江村などでは、所有者が遠方に住んでいて管理が行き届かず、人口の減少で需要も少なく、空き家が増加。取り壊す費用の工面ができない、利活用しようにも仏壇が残っている、所有者が高齢でその意思決定が難しい、事務手続きが負担といった、所有者の高齢化、活用への抵抗感が見られる。また、空き家の買い手や借り手とのマッチングの難しさもある。
こういった状況下でも、空き家や空き施設を活用し、さらに地域に貢献しようとする人々もいる。民間が取り組むまちづくりとしても先駆的な事例だろう。
空きスペースでまちづくり
オーナーの意向くみ取り地域の課題解決へ◆近所の防災と交流拠点「三宝邸」
築40年以上の鉄筋コンクリートの平屋。雨漏りやコンクリート剥離などがあったためリフォームして活用
那覇市繁多川にある「三宝邸」は、20年近く空き家だったが、古謝昇さん(80)・勝子さん(76)夫妻が地域住民の交流と一時避難の場に変えた。「地主さんから購入、リフォームして3年。今では近所の人が庭で休み、『癒やされる』と言ってくれるのがうれしい」と話す。
元々所有していた地主は高齢で家の管理ができず、顔見知りだった古謝さんが代わりに手入れをするようになった。「地主さんから『2人にだったら売る』と言われて。悩んだが、『これは天・地・人からの授かりもの』と思って購入を決めた」。自身の子どもや地域の青年会などからも協力を得て、ごみ屋敷のようだった家や庭を修繕した。
4メートルほどの木々がうっそうとしていたという庭も、近所の人と一緒に手入れし直して、元々あった立派な日本庭園が蘇った。ユンタク会や三線会などが開かれる
周辺の住民は高齢者が多く、ブロック塀に挟まれた袋小路の多い地域。当初は貸家として使っていたが、「近所の高齢者が災害時に指定避難場所まで行くのが困難。ここは授かりものだから、地域に開放して一時的に避難できるようにしようと考えた」と夫婦。袋小路の突き当たりにある敷地で、背後の墓地を抜ければ大通りまで近道になるため、背後の塀には出入口も設けられている。避難所のほか、地域包括センターと連携してユンタク会を開くなど、近所の高齢者の憩いの場に。「遠い親戚より近くの他人で助け合いたい」と夫婦はほほ笑んだ。
背後の墓地につながる避難用の出入口。脚の弱い人のためにと、古謝さんお手製の竹の杖がパーゴラの柱に立てかけられている
◆地域の仕事をつくる長屋「Wakulaba」
建物は築14年の鉄筋コンクリート造。1階が既存デイサービス施設、2階がWakulabaのフロア
うるま市平安座島にある「Wakulaba」は、空きスペースになっていた介護施設の2階を活用。地域内外の人が交流し仕事を創出する会員制コミュニティースペースとして今月オープンした。「労働者不足、地域経済の活性化、空き家活用など、地域が抱える課題を解決するため、島の人と外の人が力を合わせて仕事をつくる部室のような場所にしたい」と、運営する(一社)プロモーションうるまの菊地竜生さんと西貝瑶子さんは話す。
同建物は、1階のデイサービス施設の運営などを行う㈲へしき屋が所有。オーナーで同社の宮里恵都美さん(67)は長屋育ちで、「みんなと生活を共にする環境」に思い入れが深い。そのため、2階フロアは常に人の気配が感じられる長屋のような空間がコンセプトに。老人ホームや宿泊施設として運営していたが、働く人がいなくなり、3年前に空きスペースになった。「島に貢献し、建物のコンセプトを理解してくれる人に活用してほしい」というオーナーの思いが運営会社と一致し、フロアの賃貸を決めた。
長屋をコンセプトにした空間で、個室と廊下は障子で仕切られている。廊下は幅広く、共有のリビング兼作業スペースに
同施設は、全国規模でワーケーション施設を展開するLivingAnywhereCommons(リビングエニウェアコモンズ)の拠点でもあり、県外事業者や個人などのテレワーク滞在も受け入れ、地域事業者とのマッチングなどの支援も行う予定。
個室にはトイレや浴室も完備。現在は、西貝さんと他2人が住み込みで使っている。内装は当時のままだという
取材/川本莉菜子
毎週金曜発行・週刊タイムス住宅新聞
第1816号 2020年10月23日発行号より掲載