リノベ
2020年11月20日更新
法規比べて唯一無二の宿に|今ある家をバージョンアップ[7]
「ゲストハウスを経営したい」「英会話を習う70代の母が外国人客と交流できる場を作り、生きがいを感じてもらいたい」という施主の思いからスタートした計画。コロナ禍の影響で旅のスタイルが変わりゆく今、リノベーションによる唯一無二の宿づくりを目指します。
文・森岡瑞穂 (リノベーション協議会沖縄支部 会員)
case7「築20年の実家の車庫」⇒「1日1組限定のゲストハウス」
◆相談&課題「旅館業」「特区民泊」「民泊新法」 どれなら思いを実現できる?
◆リノベのプロが提案!
どの法の下で宿泊業を営むか、それぞれのメリット・デメリットを整理・検証
複雑に混ざり合う法規
宿泊施設を計画する場合、建築基準法だけでなく、消防法、旅館業法(または特区民泊や民泊新法)などの法規をクリアする必要があります。
例えば、建築基準法では居室は一定の採光を確保しなくてはならず、消防法では延べ床面積が300㎡を超えるか否かで火災報知機や誘導灯など、必要になる消防設備が変わります。旅館業法では一定数の衛生機器や宿泊者専用の動線も必要となります。各種の法規でさまざまな制約がある上、それらは相互に矛盾していることもあります。
今回は各法規をクリアし、コストコントロールを図りながら、鉄骨造の施主の実家(築20年)の車庫を宿にする計画を進めました。
※宿泊業を営むために得るべき許可の根拠となる法規は「旅館業法」以外にも、「国家戦略特別区域法(特区民泊)」「住宅宿泊事業法(民泊新法)」等、市区町村によって異なるものがある。遡及(そきゅう)される法規を検証し、どの法で許可を得るか決める。
物件に合わせた検証と空間づくり
特区民泊や民泊新法で宿泊施設を営む場合、建築基準法上は「住宅/長屋/共同住宅」の用途であることが必要。しかし、それらの用途での採光制限をクリアできる居室を、この建物では接道側にしか作ることができませんでした。
一方、旅館業法なら、建築基準法上は「ホテル/旅館」の用途として扱われ、客室は一定の換気設備を設置することで建築基準法における採光制限がなくなります。
そこで、今回は旅館業法で宿泊許可を得る方針に。残されていた建築時の図面を元に、既存の排水管や梁の位置を確認した上で、手前から奥に向かって、エントランス→フロント→ダイニングキッチン→リビング→客室という空間構成にしました。
さらに旅館業法上の採光面積を満たすため、客室の腰窓を掃き出し窓へ改修することで、開放的な明るい空間を実現。また、客室以外は既存の天井を取り払うことで、さび止め塗装された朱色の鉄骨が見え、インダストリアルな雰囲気になりました。
After
before
特徴となるポイントを決めよう!
宿といっても形はさまざま。ゲストに対する施主の思いが、世界に一つだけの宿にします。今回の施主は「食」に関心が高かったため、ゲストも交えて同時に何人も並べるような、天板の長さが3.5mを超えるキッチンを提案しました。
専門的な助言に加え、施主の思いを実現するため一緒に考えてくれる業者を根気強く探すことが大切です。
迫力ある造作キッチンは宿の最大のポイント
手前のエントランスから奥の客室までつながる空間
執筆者
もりおか・みずほ
大阪の堺で育った関西人。立命館大学卒業後、Arts&Craftsへ入社。住宅系資格を有するが資格には頼らない仕事ぶりで、毎日奮闘中。沖縄で嫁入りし、地元精通ももう間近! リノベーションした自宅に住む。
◆Arts&Craftsの強み
1994年設立、日本におけるリノベーションの黎明(れいめい)期から活動。個人住宅のリノベから空室が目立つビルやアパートの再生コンサルティングまで手掛ける。沖縄事務所は老朽化したホテルを再生し運営もするSPICE MOTEL内。
北中城村喜舎場1066
098-975-8090
https://www.a-crafts.co.jp
■リノベーション協議会とは 消費者が安心して既存住宅を選べる市場をつくり、既存住宅の流通を活性化させることを目的に、2009年7月に発足したリノベーション業界団体。全国1000社弱の企業等が参画し、優良なリノベーションの統一規格「適合リノベーション住宅(R住宅)」を定め、普及推進している。その年のリノベNo.1を表彰する「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」も年々注目が集まっている。https://www.renovation.or.jp
■10月までの記事はこちらから
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1820号・2020年11月20日紙面から掲載