敷地貫く土間は風の道|(有)アトリエ・ノア |タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

お住まい拝見

お住まい拝見

2018年9月7日更新

敷地貫く土間は風の道|(有)アトリエ・ノア 

[お住まい拝見・地域や親戚とつながる場]高低差のある2カ所の接道を、長い土間でつないだ南城市のNさん(58)宅。エアコンがいらないほど風通しの良い空間で、建て替え前と同様に地域の人や親戚が集う。


LDK。写真右下から中央奥の階段の先にかけて、長い土間が続く。風の通り道にもなっており、涼しい風が吹き抜けていく

エアコンいらずのLDK

Nさん宅
RC造/自由設計/家族1人

南方の海に向かって開いた丘陵地。縦横に規則正しく道路が行き交う昔ながらの形をした集落にNさん宅は建つ。

南側の道路から玄関を入ったところにある土間は、クランク状に曲がりながら奥へ奥へと続いていく。左手にLDKや寝室、右手にテラスや畑を見ながら進んだ先には階段があり、車庫を通って北側の道路に出られる。

Nさんは「靴のまま通り抜けられるので、玄関からでも車庫からでも、用事のある部屋まで直接行き来できて便利」。

土間は風の通り道にもなっており、海から上ってきた東南の風が各部屋に涼を届けながら北へと抜けていく。「エアコンがいらないほど風が通って気持ちいい」とNさん。

実際、住み始めてからの5年間、広々したLDKにエアコンは設置されていないが、Nさんはゆったりとくつろぎながら時代劇などのDVD鑑賞を楽しんでいる。


寝室。右奥の大きな窓からは畑や庭の緑が見える。Nさんは「きれいな景色で目覚めもスッキリ」
 

思い出浮かぶ梁
敷地にはもともと、Nさんが生まれ育った築50年ほどの瓦屋などの建物と、小さな畑があった。老朽化や台風被害を受けたこと、「ムートゥヤー」だったことなどから、建て替えることに。設計は仕事で知り合った建築士に依頼した。


親戚が気持ち的にも集まりやすい住まいにしたかったNさんは、旧家屋の古材を使ってほしいと要望。そこで建築士は母屋の小屋組みに使っていた梁(はり)を、LDKの天井の一部に再利用した。Nさんは見上げながら「家族や兄弟と一緒にご飯を食べたことなど、昔の光景を思い出すね」。


広々としたLDK。天井にある木の梁は、建て替え前の母屋のもの。写真左の掃き出し窓を開け放てば、リビングとテラスを一体化させて使える

LDKの小上がりになった畳間では友人とお酒を酌み交わし、アマハジのようなテラスでは近所の人とユンタク。テラスとリビングとの間にある窓を開け放してできた大きな空間に多くの親戚も集まる。

畑で大粒の汗をかきながら季節の作物の世話に精を出すNさんは「集落とつながりながら、昔と同じような生活ができて満足」と日に焼けた顔をほころばせた。


北側道路から見た外観。敷地にある段差や高低差がよく分かる。写真手前の畑ではNさんが作業をしている。畑の散水には、右の車庫の下にある30トン近くためられる雨水タンクの水を使う


南から見た外観。もともとあったブロック塀を撤去し、風通しの良さにつなげた


ここがポイント
地形に沿った配置でコスト減
敷地は南北に細長く、南と北の2面に接道。北側道路の方が約4メートル高い。敷地内にも段差があり、建て替え前は母屋や離れより高い所に畑、さらに高い北側道路と同じ高さに車庫があった。

建築士の本庄正之さんは「建て替えにあたり、造成費を抑えるとともに、風景にもなじませるため、地形をそのまま生かした」と話す。そのため居住空間、畑、車庫は建て替え前と同じ高さに配置=下断面図。それらを土間でつないだ。「これまで屋外にあった通路を建物に取り込み、半屋内的に使えるようにした。雨でもぬれずに移動できる」。





平面では、西側に建物を寄せ、東側を庭や畑として開くことで、夏に吹く東南からの風を取り込みやすいよう計画。階段を上った先にある土間の最奥は常に開けられる滑り出し窓なので、室内で温まった熱気が自然に出ていく。「高低差を生かしながら、風の流れる仕組みをつくった」。

建物の西側には、浴室やトイレなどの水回り、クローゼットなどをまとめ、西日による居室への熱影響を抑えた。それだけでなく、「湿気は湿度の低い方へと移動する性質を持つ。西側が湿度の低いドライルームとなり、居室の湿気を引っ張ってくれる」と説明。より乾燥を促すため、西側に天窓や光庭も設けた。

そのほか躯体の構造壁を間仕切りとして利用することで、建具や間仕切り壁の費用を削減。LDK部分の屋上は、外断熱として砂利を敷き、躯体に直接日差しが当たらないようにした。


ドライルームにするため西側に設けられたトイレや光庭。寝室とトイレを結ぶ裏動線にもなっている


テラス。旧家屋にあったアマハジの雰囲気が残る

[DATA]
家族構成 :Nさん
敷地面積 :570平方メートル(約173坪)
1階床面積:139平方メートル(約42坪)
建ぺい率 :29.3%(許容70%)
容 積 率:22.4%(許容200%)
用途地域 :無指定
躯体構造 :鉄筋コンクリート壁式構造
設  計 :(有)アトリエ・ノア 本庄正之、渡嘉敷真毅
構  造 :建築設計 庵 比嘉一博
施  工 :(株)GAB 濱元宏
電  気 :美光電設
水  道 :ライフ工業


[問い合わせ先]
(有)アトリエ・ノア
098-884-2404
a-noa.co.jp


撮影/高野生優 編集/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1705号・2018年9月7日紙面から掲載

お住まい拝見

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

スタッフ
出嶋佳祐

これまでに書いた記事:224

編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。

TOPへ戻る