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2018年1月12日更新

筒型で海と風身近に|アトリエ・ネロ

[お住まい拝見・自分たちで漆喰塗り電力自給]Fさん宅は部屋が一直線につながる筒型。家中から海が見え、風通しも良い。「面白そう」と自分たちで壁の漆喰(しっくい)や木部の柿渋(かきしぶ)を塗り、電力は完全自給のオフグリッドにした。

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室内を階段状につなげたことで、大きな一枚ガラスをはめ込んだ土間テラスからの眺めが、リビングからも、手前の和室からもそのまま楽しめる。風通しもいい
 

「面白さ」が優先

Fさん宅
RC造/自由設計/家族2人

室内に入った瞬間、目を奪われるのが、土間テラスの大窓一面に広がる海。Fさん宅は、国道の向こうに広がるその海に向け、土間テラスとダイニングキッチン、リビング、和室が一直線に並んでいる。「段々高くなっているので、一番奥の和室で寝起きしていますが、朝起きた瞬間から海が見える」とFさん。土間テラスの隣が浴室になっていることから「頭を洗うときも海を見ながら」と笑うほど、毎日が海ざんまいだ。窓を開ければ家中に風が吹き抜ける。

北部育ちのFさんにとって、両親から譲り受けた敷地は「子どもの頃からの遊び場だった」そう。夫は本土出身だが、「寝る時は自然の風で」と話すナチュラル志向。そんな夫妻にとって家造りのキーワードになったのが「面白い」だ。

「木や漆喰などの自然素材が好き」だったこともあり、そうした住宅を手掛けるハウスメーカーの家も見てきたが、「同僚が家を造る際、自分たちで壁を塗ったという話に興味を持った」ことから、設計は同じ事務所に依頼。家を建てる際は、室内壁の漆喰や木部の柿渋塗りにも挑戦。「家族や友人ら20人以上に手伝ってもらいました。丸二日がかりだったから、大変だったけど楽しかった」と室内を見回しながら満足げに話した。



ダイニングキッチンから和室を見る。和室は床と同じく柿渋を塗った障子を閉めれば寝室に。リビングの床下は段差を生かし床下収納として活用した1階
 

できる所は自分で

電力を完全自給のオフグリットにしたのも「面白そうだったから」だ。家造りの最中に、電力自給システムの構築をサポートするNPOが岡山県にあること、県内でも実績があることを知り、建築士に相談。以前から自然エネルギーに関心があったこと、アパート住まいだったころの電気消費量を考慮しても無理なく導入できそうだったことも後押しした。

住み始めて1年余。「夏は正午前には充電率が100%を超す。アパート時代はほとんどクーラーを使っていなかったけれど、一緒に暮らす犬や猫のための使い始めた。夏の一番暑い時間帯が一番発電するから、そういう意味では理にかなってるかな」と楽しげ。「蓄電が底をついても、ローソクを使えばいいしね」とこともなげだ。

「できるところは自分たちで」と、庭の植栽や芝張りは夫が担当。「最近は庭いじりが好き」と週末ごとに汗を流す。朝晩と表情を変える海と風を身近に、自然体で暮らしを楽しんでいる。


東側から見た外観。敷地は高低差が最大3メートルあったが擁壁は設けず、地形に合わせて最小限に切土し建物を配置。庭と駐車場で挟むことで、眺望も風通しも確保した


ここがポイント
階段状の居室で眺望と光風


琉球石灰岩を敷き詰めたダイニングキッチンとその先の土間テラス。「夏ははだしで歩くのが気持ちいい」とFさん。ガラス戸で仕切れば空調は効かせつつ景色はそのまま楽しめる


Fさん宅の敷地は、国道を挟んで目の前に西海岸が広がる細長い三角地。北から南に向けて奥行き80メートル、幅は一番広い所で12メートルしかなく、高低差は3メートルあった。そうした条件を生かし、建築士の根路銘安史さんと水上浩一さんが導き出したのが、居室を階段状につなげた筒型の家だ。

海に面する土間テラスの北面は、高さ2メートル45センチ、幅3メートル60センチの大きな強化ガラスをはめ込んだフィックス窓に。台風時の海風を考慮しつつ、景色を一枚の絵のように切り取っている。その土間テラスとダイニングキッチン、玄関をベースに、一段上げてリビング、さらに一段上げて寝室兼用の和室を配置。「段差があることで海から一番奥まった和室でも景色が楽しめると同時に、ワンルーム的につながる居室を緩やかに仕切る役割もある」と水上さん。根路銘さんは「和室のある南東側から吹く風も家中に取り込める」と説明する=断面図参照。



玄関やテラス、ダイニングキッチンは、汚れを気にせず使える土間に。屋上緑化や、電力を完全自給できるオフグリットシステムを取り入れているのは、自然派志向の夫妻の要望からだ。特にオフグリットシステムについては、外国製の機器もあり、メンテナンスや不具合が起こった際の対応も施主自身で行わなければならないなどハードルは高いが、根路銘さんは「おおらかなFさん夫妻のライフスタイルに合っていたから無理なく取り入れられた」と話した。


玄関。隣室との境にはFさんの趣味であるオーラソーマのボトルを飾ってインテリア代わりに/写真左。浴室。「床は海をイメージしグラデーションに」とFさん。ガラス張りの仕切りで洗面室からも海が見える/写真右



[DATA]
家族構成  :夫婦、犬、猫
敷地面積  :770.04平方メートル(約232.93坪)
1階床面積 :87.24平方メートル(約26.39坪)
建ぺい率  :12.34%(許容なし)
容 積 率 :11.33%(許容200%)
用途地域  :無指定地域(特別用途制限地域)
躯体構造  :鉄筋コンクリート壁式構造
設  計  :アトリエ・ネロ 根路銘安史、水上浩一
構  造  :パス建築研究室 新川清則
施  工  :(株)シンコウハウス工業 戒田勝哉
電  気  :(株)ミシマ・プラン 親田直司
水  道  :(有)山商 山下富一
ガ  ス  :エッカ石油(株) 棚原憲正
キッチン天板:LITTAI 仲地研二
玄 関 扉 :まっくる屋工房 伊礼聡、新垣範雄



[問い合わせ先]
アトリエ・ネロ
098-889-0103
http://www.a-nero.com/


撮影/泉公(ララフィルム) 編集/徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1671号・2018年1月12日紙面から掲載

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